「これだけ釣れるなら、今度は結と一緒に来るかな」
新庄は釣った魚以外の物を確認していく。
「どう考えても、ここに無い物が釣れたんだけど。俺の作った塩湖にエンチャント素材が流れ込んだり沈んでいた訳もないし。
これが『宝釣り』の効果なんだろうな」
エンチャント素材は、主に鉱石類である。
作られた塩湖なので、最初からこれらが沈んでいた訳はない。新庄は温度調整などのためにエンチャント肥料で色々とやっていたが、こんな物をわざわざ沈めてもいない。
これが少しぐらいなら流れ込んできたと考えもするが、釣れた量はそんなものではない。何らかの魔法的な作用があったと考えるのが自然だ。
「でも、時間的な効率を考えると、そこまで美味しくもないんだよな。
……いや違うか。魚とかのついでに釣れたと考えれば、かなり美味しい話か」
エンチャント素材を探すだけなら、釣りで手に入れるのは時間効率が悪い。
欲しいものが確実に手に入る訳ではないし、量も少ない。普通に採掘をした方がマシだ。
しかし、それ以外に目を向けると話が変わる。
魚のついでと思うだけでも全然違う。
釣果が凄まじいので、それだけで利益が出るのだ。
その他、水に浮かぶ葉っぱや、ただの水が入ったガラス瓶。動物の毛皮の切れ端や謎の骨、使えそうで使えない壊れかけの釣竿や弓、ブーツ。
要らない物もあるが、まったく意味がないわけではなく、そのままで使えなければ焼いてしまえばいいので、無駄にはならない。
ゲームではできなかった処理をすれば、これらもゴミではなく資源に変わるのだ。
そう考えると、釣りは効率の良い食料と素材の収集手段に見えてくる。
「自分のやりたい事を考えると、無駄が大きい。
なら、これも人に任せれば良いかな」
これだけ結果を出せる事なら、釣り自体は誰かにやらせて、自分は竿の対価で上前をはねれば効果的だろう。
ただし。
「『宝釣り』『入れ食い』のエンチャントに竿の耐久力がなぁ」
ゲームと違い、エンチャントは効果を発揮するたびに消費される。一時間の釣りの間に、何度かかけ直しを必要としていた。
それに竿にも負担がかかるので、『修繕』エンチャントが勿体ないと、壊れそうな部分を修復しなければいけなかった。
何もかもが都合よく出来る訳ではない。
これを事業にして、人を使うなら、色々と考えないといけないのだ。
そこまで計画した新庄は、ふと、これが結に知られたらどうなるかを考えた。
「これを実行したら結に怒られるかも?」
遊びに出掛けた新庄が、その遊びを仕事にしようとすれば、なんとなくだが、新庄の事を「仕事人間」と怒りだしそうな気がした。
それは、良くない。
「釣りは趣味。
それ以上は考えないようにしよう」
なんでもかんでも効率などを考え、人を使って事業にしようなどと考えるのは、新庄の悪い癖だ。
本人はそれで満足なのだが、巻き込む周囲の事も考えないといけない。
そう思い直した新庄は、釣りを仕事にするのは止めて、自分一人の胸の裡にしまう事にした。
釣りは趣味。それで良いじゃないかと自分に言い聞かせる。
「これだけ釣れるなら、今度は結と一緒に来るかな」
そうして、趣味なんだから共有しようと、結を誘う計画を立てるのだった。




