「うーわー。キャラバンっすよね。たくさん人を雇うんすよね。どんだけ金遣い荒いんすか」
新庄の評判を回復させることは難しく、組織に所属して誤魔化してしまう手法も取れない。
かと言って現状維持がいつまで可能か分からず、もしも駄目になってしまえば、そこで新庄は魔王になってしまうかもしれない。
だったら、難しかろうと、どうにかするしかない。
何もしないままでは何も変わらず、悪化するだけ。最悪の未来へ突き進む事になる。
ジタバタする事しかできないなら、ジタバタするだけ。
足掻いた結果、最悪に最悪を重ねる事もあるが、今回はマシになる可能性の方が高いだろう。
「んで、何をするんすか?」
「オズワルドの手を借りる。それでキャラバンを組んで、俺の名義で商品を売る。適正価格で、他の商人に迷惑をかけない程度の商売をしようと思う」
「……んー。あんまり、効果無さそうな気もするっすよ」
「そりゃ、凄く効果がありそうな事は怖くて手が出せないんだから、そんなに効果がありそうにない、地道な活動をしようって話なんだからね。
キャラバンが来てくれると助かるってのは、地方の村のあるあるだろ。そうやって、少しだけ貢献をするぐらいでちょうど良いんだよ」
派手な活動はしない方針だが、広範囲に影響を及ぼすために、新庄は分かりやすい手段を選んだ。
キャラバンを組んで、定期的に多くの村々を渡り歩かせる。
村というのは外部の情報があまり流れて来ない閉塞感のある場所なので、キャラバンが来れば大体歓迎される。適正価格なら物の売買をするだけでも娯楽になるし、外の情報があればどんなものでもしばらく話題に困らなくなる。
そうする事で、多少のイメージ改善がされると思われる。
「問題は、長期の遠出をさせるのに適正価格なんてアホな事を言わなきゃいけないから、利益が見込めない事なんだよね。
その分の補填はしてあげないといけないかなぁ。一人当たり、これぐらい?」
「うーわー。キャラバンっすよね。たくさん人を雇うんすよね。どんだけ金遣い荒いんすか」
なお、そうする事で発生する支出は、荻たちでも簡単に出せない資産を必要とする。
新庄が商社で働いていた時、危険地帯に指定されていたイスラエルに出張する場合は、出張手当が日当で2万円付いた。
飛行機に乗る前に遺書を書かないといけない、そんな場所への出張だと、それぐらいの手当てが無いと誰も行かないのだ。あったところで断る人間の方が多いのだから、現地の治安は推して知るべし。
新庄は自分の名前でキャラバンを動かすのだから、普通よりも危険度が高くなると考えて、当時の感覚を頼りにそれだけ出すと言ってみせた。
そして、荻が引くぐらいの支払いをすると決める。
「はー。こういう話をすると、資本の差を実感するっすよね。
なんか、普通に働くのが馬鹿らしくなるんすけど」
「その分、俺は直接的な戦闘能力が低いのが難点なんだよ。無いものねだりさ」
「こっちは人数いるんで。一人ぐらい戦えなくても何の問題もねーっす」
荻は新庄の資産総額に、真面目に働く事のむなしさを感じる。
どう考えても、金稼ぎという視点では新庄のギフト能力に敵わない。
もうちょっと、自分たちも誰か一人ぐらい何かそういったギフト能力を貰っておくべきだったと痛感する。
新庄は笑って誤魔化そうとするが、荻はジトっとした目で睨み返すだけだ。
「ま、今更っすけどね。
売りモンについては、こっちも相談に乗るっすよー」
いや、もう終わった話だと、すっぱりと話を終わらせた。
気持ちの切り替えの出来る荻は、世の不条理や過去の選択ミスを飲み込む。
そうして新庄への協力を申し出るのだった。




