「これはこれで甘いって言われるんだよね。はぁ」
何も貰わないで済ませてしまいたいが、こういった事で無償提供をすると、次も「以前こうだった」と話を蒸し返され、面倒な事になる。
自衛に為にもここで甘い顔をするという選択肢は無くて、キッチリと取り立てねばならない。
すでに甘く見られているように感じられた新庄は、相手が最初、名指しで救援要請を行った事を理由に報酬の話を詰めていく。
戦勝国は、例えるなら同規模の赤字企業を買収してしまった会社である。
ただ、その企業は1年前まで黒字だった実績があり、きちんと再建できれば黒字復活もあり得るポテンシャルがあった。
すでにいくつもの主要プロジェクトが崩壊していて、多くの人材が失われているが、それでもまだ会社の体は保てられる状態のはずだと新庄は判断していた。
「農業を始め、いくつかの分野への投資が必要になります。そこさえ押さえれば、まだ立て直しもできるでしょう」
「徴兵された男手と、徴税の資金をねん出するためにと売られた娘たちを見ますと、村全体がすでに消滅する寸前でして。そこまでの投資ができる状態ではなく、ですね」
「……だからこそ、多国による難民誘導だったのでしょう?
戦争による人死には最小限に抑えられたはず。なのになぜ、そこまでの状態なんでしょうねぇ?」
渋る相手には、痛い所を容赦なく突く。
敗戦国がガタガタになった理由は、戦勝国の兵士による略奪が理由の一番に挙げられる。
もちろんそれだけではないが、略奪が行われなければ、そこそこ程度の被害で済んだはずだった。民間に流れた国の資産を回収し、それを原資に立て直しが図られるはずだったのである。
なのに兵士の統制をせずに放置し、無駄に国を痛めつけた結果、こうやって「お金が無いので別の報酬を」と言い出す羽目になる。
現状の前後関係を正しく理解していれば、どこに問題があったのかは一目瞭然。
軍の統制に力を入れなかった戦勝国が悪いと、これはそういう話である。
――ただしそれは、現代の地球ですらまともに出来ない事でもあったが。
新庄の発言は無茶振りだが、理屈としては間違っていない。
自国の兵士が略奪などを行った結果、敗戦国だったエリアがボロボロなのだ。
責任の所在は、戦勝国側にある。
これまでの常識、慣例に照らし合わせれば、「いつもの事」の一言で済まされる兵士の略奪。
そこを責められると「だったらどうすればいいのか?」と言いたくなるが、言ったところで実行不可能な発言が、ただし正論が返ってくるだけなので、交渉役は唸るしかない。
最初から彼らに「理」が無いのは知っているのだ。
感情に訴えかけるしか方法が無いからこそ、初手土下座で譲歩を引き出したかった。
新庄は甘く見られていると考えたが、甘く見られていないからこそ、情に訴えたのだ。
彼らは自分たちの状況を正しく理解できていたのである。
「まぁ、それももう過去の話。どうにもできません。
今は未来の、どうにかできる話をしましょう」
最終的に、新庄は今回の件を低利子の借金で片づけることにした。
今回の報酬をしばらく払わなくていいだけでなく、追加の貸し付けを行い国を立て直せるように手を貸すことにしたのだ。
割れて穴の開いた鍋に水を入れるのではなく、鍋の穴を塞いでから水を汲むような気持である。
「これはこれで甘いって言われるんだよね。はぁ」
おおよそ、こうなる事は予測できた。
この世界、この時代の戦争などそんなものだろうと見切りをつけていた。
予想より下に行かなかった事で、新庄は妥協をいくつも重ねたのであった。




