「我々としては、既に何を作られているのか全く理解できませんがな」
新庄は研究開発の分野においては凡人でしかないので、何でも出来るという訳ではない。
電気を使った通信というのであれば、初歩の初歩、モールス信号の機械や有線の電話を再現して、そこで通信関連は開発を止めた。
もしもその先を求めるというのであれば、あとは自分たちで研究してくれと放り投げる。
通信関連の機械を知ったロンや大臣たちは、無線ではなく有線であるため、どうにも反応が鈍い。
こういった物があれば便利というのは分かるが、やはり電線を遠方まで引っ張るコストと、その維持管理費用を計算して見送る形になる。
残念ながら電線を作るのに使う銅が確保できないという結論に至り、電線を引いたとしても盗まれるか心配だという意見もあり、有用であっても手は出せないと結論付けられた。
つまり、電気関連の事業を進める前に大量生産を可能にする金属資源の確保が急務であり、そのためにはどうやって鉱脈を見付けるのか、鉱石を掘りだすのかが重要だったのだ。
新庄はこの世界の採掘能力について正しい知識を持っていたので、そうなるだろうなとは思っていた。
だから何も気にせず、電車の開発にリソースを割り振るのだった。
電車を作る事は難しかったが、何とかなった。
「まぁ、事前準備分のおかげで何とかなったか。
けど、何度も作りたいものじゃないな」
「我々としては、既に何を作られているのか全く理解できませんがな」
「そこはもう、勉強してもらうしかないかな?」
車体は鉄製、塗装でさび止めと耐候性の向上を図る。
ガラス窓に木材の床は手持ちの素材があったためにすぐに完了。
三相交流用の電動モーターを使って車輪を回す機構。モーターは製作済みなので、問題無し。
天井の上に電線から電力供給を受けるひし形パンタグラフの集電器を設置。三相交流という三本の電線から電力を受け取る形のため、これに一番苦労する事になったが何とか実現にこぎつけた。
集電器は下手な作りをすればすぐに摩耗してしまうので、かなり気合を入れて開発した。
集電器よりはマシだが、やや面倒だったのは自動ドアである。扉の強度と開閉用に使うモーターのトルク出力とサイズのバランス調整、開閉を制御するスイッチ回路の作成に手間取った。
モーターは小さいものを使えば出力が足りず、ドアが動かない。速度は必要ないと言ってギアで誤魔化すにしても、遅すぎるのは論外だ。自動ドアを安全に動かすためには、速度も重要である。
スイッチ回路は、回路そのものは簡単だったが、開閉を検出するセンサーとそれによる動作の停止などの管理が面倒であった。マイコンがあればプログラムで対応できるのだが、電気回路だけでそれをやろうと思うと管理が面倒になるのだ。
どれも元になる考え方がわかっていたから作れた物だが、本来であれば何年も研究して作るものである。
それらをショートカットして作った弊害はいつか表面化するかもしれないが、それは今すぐに考えなくてもいい問題でしかない。
新庄は見本となる物を作り、こういった物があるんだと見せるだけだ。
先の話は先の人に任せ、今いる人間は今できる事をするべきである。
新庄がやった事は、いずれ誰かが引き継いでくれる、かもしれない。
全ては無理でも、すぐには無理でも、研究記録があれば誰かがいつか受け継いでくれる。
新庄はいつかこちらの人々が電車を作るだろうと信じて、作った電車のお披露目を開始した。




