「俺……復讐なんて止めて、故郷に帰って家族の墓を守るんだ」
荻たちのお金の使い道は、少しだけ遊びに使われたが、協力者への謝礼を支払ってしまえば、あとは開発に回された。
村の中の道路や、村で使われる道具類。砂漠なので街道を整備する事は出来ないが、生活のレベルは確実に向上した。
生活のレベルが上がれば日々の作業における各種効率がわずかに上昇し、見えにくくはあるが村に恩恵をもたらす。
村に物を売った外の商人らの懐は温まり、在庫が減れば職人に頼んで補充を行う。
全体や細かい所まで行き渡るわけではないが、荻たちの作った「金の流れ」は砂漠の国に滞ることなく染み渡った。
「やれやれ。これ以上無駄な事に金を使わないでいただきたいのですがねぇ」
「無駄ではない! アレさえあれば、我が国も『超加速の魔法陣』に怯えずに済むのだぞ! どれだけ犠牲を払ってでも、手に入れねばならん事がなぜ分からん!!」
「……費やした金と人。それらは、どうなりましたかな? 結果の一つでも出していれば、その言葉に価値はありましたが、結果を何一つ残していない貴方が何を言っても無価値なのですよ。
連れて行け」
「待て! まだだ! まだ終わってない! まだ終わらせんぞ!!」
一方で、隣国など、間者を送り込んだ国々は疲弊している。
『吸魔の杭』、作り方やその現物があれば開発の期間と費用が大いに下げられるからと、彼らは少なくない金額と優秀な人物を送り込んだ。
なのに何度も偽物を掴まされては金と時間を無駄にして、時には摘発されて人を減らし、砂漠の国における諜報活動の基盤を壊された。
自分たちの失敗を認めたくない指示した者が更迭されるまで、無駄に人と金を浪費してしまった。
こうなっては普通に開発を行わせた方がまだマシであり、最初からそうするべきだったと考え直すきっかけになりはしたが、砂漠の国は恨みを買い過ぎた。
中には連合を組んで砂漠の国を落としてしまえという意見もあった。
だが、それをすると『オアシスの賢者』新庄が出てきかねない。
『超加速の魔法陣』の対抗手段を持つ新庄ならば、『吸魔の杭』で砂漠の国を守りつつ一方的に敵国を蹂躙しかねないと、各国は警戒して動くに動けないでいた。
ロケット砲の話は知られていないが、とある町を守るために一人で艦隊を沈めた話ならそこそこ出回っているので、同じ事が陸でも起きかねないと、誰もが新庄を警戒している。
少なくとも新庄とロンの離間が上手くいくまでは、どの国も攻めるに攻められない。
彼らはどこかのテロリストとは違い、正しい情報から新庄と戦うリスクを回避していた。
一方で、生き残ったテロリストたちは完全に機能不全に陥っていた。
「貴様らのせいで、兄弟は、俺の兄弟はっ!」
「殺せ! 俺たちの家族を死なせた無能を殺せ!」
「……もっと早くに気が付くべきだったんだ。こいつらは最初から負け犬だった。ここは、負け犬が吼えていただけの組織だったんだ……」
一度目の失敗は仕方が無いで済まされたが、二度目の失敗でリーダーたちの権威が完全に失墜したからである。
これ以上今のリーダーたちに付いて行っても上手くいくとは思えず、集まっていたメンバーはもう付き合ってられないとばかりに離れていったのだ。
人としてのカリスマとは、成功体験が無ければ機能しない。
どこかで結果を出していれば言葉に信用が生まれるが、失敗続きであればだれも付いていけなくなる。
「この人に付いて行けば大丈夫」とは、言葉だけで何とかなるのは最初だけで、あとは実績で示すしかないのだ。
大きな事を言って二度も失敗すれば、下の者が組織のためにと差し出した金品を無駄にすれば、殺されても文句は言えないのである。
テロ組織の命運は、新庄を狙った段階で終わっていたのである。
「俺……復讐なんて止めて、故郷に帰って家族の墓を守るんだ」
「俺もそうするか。こいつらを、故郷の土に埋めてやりたい」
テロリストたちは、組織から離れ害虫から人間に戻り、現実に打ちのめされながら散っていった。
何にも成せず、悪事すらまともに行えず、終わった人生を歩む。
何も成せはしなかったが、彼らのその後は、穏やかだった、かもしれない。




