「な、なんの事だ? 我々は、ここで商売を始めようとしているだけだ」
テロリストたる彼らは、自分達が新庄について調べていると分かりにくくするように、人を使って調査を再開した。
情報収集の場所も隣国に移した。シドニーたちほど警戒していないだろう場所なら、まだ安全だからである。
海の向こうの者でも町に溶け込めるよう、港町に拠点を作り、まずはそこで商売でも始めようと動き出した。
それでも現地の情報屋には自分達の情報が漏れるし、その繋がりで砂漠の国まで連絡がいくとは考えていない。
情報屋のネットワークがどのようなものか、彼らを使った事の無いテロリストたちは裏社会の知識を持っていなかった。
隣国と砂漠の国は友好国である。
半分は建前で、隣り合っている地域では小競り合いが絶えない関係ではあるが、それでも友好国なのである。
表だって軍隊の作戦行動こそできないが、裏でちょっと軍人を送り込むのなら不可能でもない。
事前の根回しを忘れなければ、多少の問題行動も見逃される。現地で協力者の確保もできる。
その程度の付き合いはあるのだ。
「はぁ。異国まで来て、賢者様を害そうとするとは。海の向こうの連中は暇なのかね?」
「仕事もタマも無いんだろ。それか、頭が悪いから知恵が無い、ってな」
新庄を狙っている者たちが、隣国で動いている。
それを知ったロンは、人工精霊の借りを返すべく、隣国へ対人戦に長けた兵士を中心に派遣することを決めた。
借りっ放しでは王の沽券に関わるのだ。
借りは返せるときに返したい、ついでに何か起きても大きな被害が出るのは隣国だという打算もあり、素早く動いた。
派遣された兵士は、すでに居場所も規模も明らかになっているテロリストのアジト、隠れ蓑としてできたばかりの商会事務所を襲撃した。
「なんだ、お前らは!?」
「海の向こうから、ご苦労さん。
けど、賢者様に仇なすなら、俺らも黙っちゃ居られないんだよ」
「な、なんの事だ? 我々は、ここで商売を始めようとしているだけだ」
「調べはついている、ってことらしいぜ。すまんが、末端の俺らにゃあ、分からん世界だ。何言われても、やる事はやらせてもらう。
そういった話は、上の連中としてくれや」
相手の倍以上の人員を投入し、抵抗にあって数名の死者を出してしまったが、捕縛そのものは上手くいった。
問題は、事務所で見付かった『超加速の魔法陣』の原本である。
彼らがこれでテロ行為を行おうとしていた証拠があったのだ。
テロリストの具体的なテロ手段が発覚した事で、砂漠の国と隣国は、その対抗手段の確保を迫られるのだった。




