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砂漠の国の、引きこもり  作者: 猫の人
砂漠の国の、神殺し
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「働いたあとに酒が飲めるって、最高」

 研究開発は、国にとって必要な土台造りになる。

 ちゃんとした技術が無ければ人だけ居ても烏合の衆となり、新しい時代の波に飲まれかねない。

 地球でも、世界で見ると少数派の白人が世界中でそれ以外の人々を奴隷にしてこれたのも、技術格差の力が大きい事がそれを証明している。


 たったひとつの発明やそこらで戦局が覆される事は滅多にないが、二つ三つと技術に差をつけていけば、確実に相手よりも有利になるのだ。

 それを分かっているから、各国は魔法陣研究に力を入れていた。



 それとは別に、砂漠の国や隣国では、機械関連の研究を進めてもいる。

 蒸気機関車の製造実績のあるこの両国は、鉄道事業も本格的に始めている。


 こちらの技術はまだ他国に盗まれておらず、他の国々は外交で正式な情報入手を試みているが、結果は芳しくない。

 どちらの国も蒸気機関を簡単に売っていいと考えてはおらず、値をつり上げているわけでもなく、しばらくは独占技術として自国の発展を優先していた。


 魔石を使わない技術であれば、魔法陣の研究と平行して推し進めていける。

 新庄の手助け無しでも安定した蒸気機関車の運用ができる体制を目指して、両国は共同で研究に取り組んでいる。



 これらの技術を支えるのは、人口増加である。


 10年ほど前に転移者の神谷がばらまいた農業革命や工業革命の種が芽吹き出しているので、戦争や蝗害の被害があっても、人が増える速度の方が早い。


 10年前から人が増えたのなら、増えたのは子供ばかりであるが、この世界では児童の労働も珍しくない。

 5歳の子供でも簡単なお手伝いはできるからと、仕事をさせるのが普通である。

 小さかろうが労働力が増えた事で、労働力の不足が解決――ではない。



「今日も飯が美味い」

「働いたあとに酒が飲めるって、最高」

「前は豆を煮込んだスープだけの日もあったのになぁ。肉も入ってるとか、信じられねぇ」


 労働力の不足が解決している理由の半分以上は、傷病や飢えで死ぬ成人が減ったからというのが大きい。

 労働人口の減少速度が低下したのが大切なのだ。


 食料の増産で、飢えにくくなる。

 栄養状態の改善で、病気になりにくくなる。

 たったこれだけの事でも、人が死ににくくなるのだ。


 人が減るのが緩やかになり、増える速度がそのままでも、労働人口は増加する。

 これが労働力の不足が解消されつつある一番の理由だ。

 あとは衛生状態が改善されていけば、人口増加はより早まるだろう。



 もちろん人が増えた事によって、多くの問題も連鎖的に増えていく。


 犯罪増加であったり、地域社会の崩壊などから始まり、工業化による公害なども想定される。

 その他様々な問題も一緒に起こるのだが、それを完璧に解決する手法など存在せず、流れのままに流されるしかない。

 場当たり的、対症療法で問題を解決する事になる。


 転移者はそれを分かっていてもどうしようもない。どうにかできるなら、それは神様ぐらいだろう。

 それも、物語の都合で生み出されるような機械仕掛けの神様(デウスエクスマキナ)だ。人の都合だけで動かされる御伽噺の住人で、この世界の神様ではない。


 それが人の世界なのである。

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