「人工精霊がたくさんいるなら、名前が無いと不便ですよ」
新庄は自分が特別な人間とは思っていない。
ギフト能力があるので、その分は他の誰かよりも有利な位置にいるが、それだけだと思っている。
魔法陣の開発や研究だって、専門家ではないから誰でも出来る事しか出来ていないと理解している。
そして自分が魔法陣の情報を得られたのだから、他の誰かだって人工精霊を作る事は理解していた。
そして当初の予定では、思念体のような存在を相手にした時の対抗手段が欲しいという話だったので、もちろんその研究もしている。
「物理と魔法、どちらにも強いけど、魔力そのものには弱いという、この理不尽」
「魔法も魔術も、魔力を物理現象に加工したあとのものだっていう判定なんだろうな。
隠密性も高いから、暗殺に使われたら、普通は何もできずに終わるね」
こちらも既に結果が出ていた。
物理・魔法のどちらにも無敵を誇る人工精霊。
しかし魔力そのものには滅法弱く、同じ人工精霊でも対処可能。
魔力を指先に集めると触れるのは初期に分かっていたので、弱点の洗い出しは簡単だった。
むしろ、物理はともかく、魔法まで無視出来る性能の高さが驚きであった。
隠密性の高さは、呼吸していないし、心臓が動いてもいない、臭いも無い。そして移動しても風を作らないという特性からだ。
視認以外の察知方法では魔力を感知するしかないのだが、常時魔力を感知し続けるのも面倒だ。
そんな事を言い出せば人間の暗殺者だって同じなのだから、新庄はもう気にしないことにしている。
同族、人工精霊同士であれば察知も対抗も容易であるため、加倉井にも人工精霊が一体付けられている。
加倉井は人工精霊に『ゆう』と名前を付けて可愛がっているが、新庄はどうしようかと悩んでいた。
下手に名前を付けて愛着を持つと、使い捨ての護衛にできないからだ。新庄の中で人工精霊は、あくまでも護衛である。大切にする愛玩動物ではない。
ちなみに、『ゆう』という名前は、見た目がドラゴン、「りゅう」だから、頭の一文字をとって「ゅう」、「ゆう」という単純な理由だった。
「人工精霊がたくさんいるなら、名前が無いと不便ですよ」
「個体識別ね。人工精霊なら略称はASだよな。エーエス、アス、アズ。アズでいいか。よろしくな、アズ」
しかし、大切にするとか可愛がるよりも、個体識別がしやすい方が大事だと加倉井に言われ、あっさりと納得した。
個体を認識する事で愛着は湧くものなのだが、そこは意図的に無視をしている。
細かい事にまで意識を割きたくなかったのもあるが、加倉井の提案に強く反発する理由も無かったので、妥協した方が楽なのだ。人間関係も上手くいく。
妥協できるところで折り合いを付けるのがコツなのだ。
直近の予定ではないが、人工精霊はいずれ増やす事になるだろう。
新庄は、量産した人工精霊の名付けをナンバリングで誤魔化したら怒られるだろうかと、そんなどうでいい事を考えた。




