「やろうと思えば汚い花火を打ち上げられるぐらいには強いよ、この子は」
加倉井の言葉に、新庄は苦笑で返した。
「確かに、貴生川が倒したって言う思念体は人の意識を操作していたようだけどね? それと同じ事をする気は無いんだよ」
「はい。だから睨みを利かせるんですよ」
「え? あぁ。そういう事か。こいつに番犬みたいな役割を持たせるわけだな」
加倉井の提案に、一瞬、敵の思念体を思い出した新庄だが、すぐに訂正されて勘違いを正す。
加倉井は新庄に足りない威圧感を足すのに人工精霊を使うように提案しているのであって、精神操作をしようとは言っていなかった。
つい、先入観で勘違いしてしまっただけである。
「言われてみれば、こいつにはそういった使い道もあったな」
例えば、知らない人間相手には唸るような機能をつければ、それだけで余計な事を言ってくる者は近付きにくくなるだろう。
人工精霊には近くに誰かが来たときに鳴き出す機能が最初から付いているので、新庄がやるべき事は多少の条件設定ぐらいだ。そしてそれは技術的に不可能ではない。
「えーと、こうして、設定を追加……。あとは個別に地道に登録をしていけばいいかな?」
この設定は後付けが可能だ。
新庄はその場で簡単に設定を済ませると、誰の許可をして誰に許可をしないか考える。
顔見知りは一通り大丈夫なので、今度会ったときにでも登録しておこうと、知り合いへの顔見せ行脚の予定を組んでいく。
「これで少しはマシになってくれると良いんだけど」
「唸るだけだと気にしない人も居ますので、多少の追っ払いができるとなお良いんですけどね。さすがにそれは高望みがすぎるでしょう。
ちなみに、攻撃手段は何かありますか?」
設定を終えた新庄は、今後に期待して人工精霊の頭を撫でた。
加倉井はやらないよりはマシになるだろうと思いつつも、実害がなければ調子に乗るバカが現れるだろうと危惧していた。
だから人工精霊に何か攻撃手段でもあれば良いのにと思い、無いとは思いつつもちょっとした好奇心で確認をしてみると。
「ん? 確実に相手を殺す事になるが、あの『超加速の魔法陣』なら組込み済だからね。やろうと思えば汚い花火を打ち上げられるぐらいには強いよ、この子は」
なんと、人工精霊はすでに強化して戦えるようになっているのが発覚した。
驚く加倉井だが、「そういえば新庄さんはそういう人だった」と納得した。これまでの薫陶の結果である。加倉井の思考停止が早い。
「そのままだと人間相手に使えないから、出力は低くしたけどね。それでもまだ使えないんだよな」
新庄はそう言って「使えない」と嘆く。
そう言う割には、新庄は人工精霊を可愛がっていたりする。
使えるかどうかは、可愛がるのと関係なさそうであった。




