「次に同じ事をした者がいれば、厳罰に処す! 何度通達を出しても従えん愚か者は切り捨てる! しかと心に刻んでおけ!!」
「血を継ぐ」という考え方は、現代日本にはあまり残っていない考え方だ。
分かりやすいところでは皇室や王室といった存在があるし、あまり知られていない一部の高貴な方々も、己の血統を何よりも大切にする。
こういった血族にとって、子種をばらまいた所で、本流にある血だけを大切にするので、一度本家から離れてしまえば傍流の血などはゴミのような扱いになる。
どちらも同じ血から別たれた一族であっても、一族が認める本家・本流にある者だけが尊く、そこから離れた者は一等劣ると見なされる。
そうしなければ「家を継ぐ」のに支障が出るので、仕方がない面もあった。
「たわけ」と言う言葉の通り、自分の子供だからと田んぼを分けて与えれば、一族がまとめて死にかねない。
全員を生き残らせられないなら、生き残る子供を選ぶ。
そうやって生き残るのが「本家」として扱われる。
より多くを生かすための本家・本流であり、だから本家は分家・傍流の守護をする事で己の正当性を主張しなければいけない義務を背負う。
生かせる家族が多いほど力が強くなる、血を残しやすくなる実利だけの面もあるが、他家という比較対象に劣っているのが許せないという感情面の話もある。
それにその“劣っている他家”に負債を押し付けられれば、自分の一族はますます繁栄できる。
そのためにも一族を大きくするのは本家の仕事の中では特に大事なものとなっていった。
この世界では、力が血に宿る事がある。
優秀な遺伝子を求めるのは貴族の本能に近く、新庄の血を取り入れれば一族がより大きく発展すると思えば狙う者が多いのも道理である。
結婚などしなくていいからと、新庄に女を預けようとした貴族は、新興の荻を除いても砂漠の国のほぼ全部。そしてもちろん全滅である。
国王のロンだって、押し付けられるなら押し付けたいというのが本音なほどだ。
だが、シドニー同様、危険への嗅覚に優れ、利に敏いロンは冗談を言う事はあっても、新庄に女を押し付けようとはしていない。
そして一度や二度の失敗でも望みを捨てず諦めようとしない貴族たちへ、牽制をする側である。
「だから! 新庄に女を押し付けようとするんじゃない!」
「しかし、陛下。我らは感謝の気持ちを持つからこそ――」
「黙れ。もしそれで新庄の機嫌を損ね、国に損を出した場合、貴様は責任を取れると言うのか?」
「そ、それは飛躍しすぎでしょう。女を差し出すぐらい、どこでもやっているただの礼儀ではありませんか!」
国として、貴族に「新庄への手出し、女の斡旋はするな」と通達を出しているが、貴人に女を差し出すのはこの国の文化で、常識に近い。
他国でも似たような事はされているので、問題になったという話の方が少ない。
しかし新庄だけは特別扱いで、その「常識的な扱い」をしてはならないと言われても、つい、いつもの癖でやってしまったと彼らは言い張る。
戦争で勝利し、一度は力を示したロンだが、若さもあって時間が経てば権威は揺らぎ、貴族への締め付けが弱まる。
ここは厳しいところを見せて、一罰百戒とせねばならないと、ロンは決意を新たにする。
「次に同じ事をした者がいれば、厳罰に処す!
何度通達を出しても従えん愚か者は切り捨てる! しかと心に刻んでおけ!!」
「はっ!」
他の誰であっても次は無い。
ここまでしなければならない現状に、ロンは苦虫を噛み潰すような思いであった。




