「これは……。これに、どうやって人を乗せようなどと考えたのだ?」
飛行機を飛ばすための魔法陣は、超加速の魔法陣である。
残念ながら目的である有人飛行には使えない代物であったが、その性能は保証されている。
新庄は超加速の魔法陣を「そのままでは目的にそぐわない失敗作」と判断し、使用時の注意点を添えて研究所に突き返した。
突き返された資料と添えられたメモは新庄の著書としてまとめ直され、図書館にも納められる。
「多彩というか、多芸な御仁ですね」
「研究者として働くには余裕がないという話ですが。これだけのものが書けるなら、時間さえあれば是非召し抱えたいものですな。
ああ。立場も邪魔するので、召し抱えるのはどちらにせよ無理でしたか」
納品された本は、多くの人の興味を誘う。
知名度の点で新庄は砂漠の国で国王に匹敵する存在であり、取り入る事ができるなら巨万の富と同じであると認められている。
そんな新庄の著書であれば、読んでみたいという人間は多い。
「人が乗るのは無理でも、物を運ぶには構わないのでは?」
「大砲のような運用ができるかも知れませんな」
新庄が不要と思おうが、使い道を考え付く者が出てくる。
「どうです? 使えるかどうか、少し試してみませんか」
「……人を募り、負担を減らしてからなら、やってみるのも面白そうですなぁ」
研究に資金を出すのは嫌でも、既に成果が転がっているなら、試そうと言い出す事もある。
上手くやれば金になる。
いくつかの貴族が結託して、超加速の魔法陣は試験運用される事となった。
超加速の魔法陣は、魔法陣の上にある物を指定した方向に動かすようになっている。
つまり、カタパルトだ。
これを思い付いた研究者は、飛行機を魔法陣で打ち出して、翼で滑空する事を考えていた。
発想の根っこは大砲である。
大砲の弾を飛行機に置き換えたのだ。
それがどんな結果になるかも考えずに。
「魔術師を何人も用意せねば使えないとは、これは失敗作と言われても仕方がないですぞ」
「いやいや。それに見合った結果さえ出るなら構わんのですよ。その結果が出てくれるとは限りませんがな」
実験の舞台は、海の近くだ。
海岸線沿いよりも内陸側に5kmぐらいの場所である。
実験の被害を考慮して、そこから海に向けて飛行機械を打ち出す予定だった。
飛行機械を飛ばす理由は、研究所に残された不良在庫だからである。
飛行機を研究していた研究者がクビになったので、彼らが本来の目的で使うと言って貰い受けたのだ。
実験なので、最初に想定した状況を再現しようとしたのである。
砂漠では足場が安定しないので、上に石板が敷かれ、そこに魔法陣が描かれる。
引っ張ってこられた飛行機械が魔法陣の上に乗り、魔法陣に掠れている部分がないかを確認したら、実験開始だ。
「始めます! 3、2、1、魔法陣起動!」
実験は、成功であり、失敗であった。
打ち出された飛行機械は加速により音速の数倍で空へと飛び立とうとした。
しかし形状と強度の問題で大気の壁に阻まれ、爆発音を響かせると、一瞬で砕け散る。
破片は辺りに飛び散り、砂漠でなければ破壊を撒き散らしたのは間違いない。大惨事である。
「これは……。これに、どうやって人を乗せようなどと考えたのだ?」
「た、大砲としてなら、使えるかもしれませんな?」
実験の結果は、それを見ていた貴族たちに大きな衝撃を与えた。
そして飛行機としての運用を捨て、大砲の強力なものとして使う認識で一致する。
「そう言えば、だが」
超加速の魔法陣の惨状を見ていた誰かがポツリと漏らした。
「賢者様は、『ロケット』という、大砲を使うらしいぞ。これとロケットを組み合わせたら、どれ程の物になる?」




