「素直な子ができるといいんだけどね。御手洗の鱗で作った俺の子供と考えると、どれくらい期待できるんだか」
人工精霊、思念体。
精神生命体とも呼ばれるそれらは、転移者の持ち込んだ概念だった。
かなり昔の転移者は、精神生命体になって物理的な攻撃を無効化するギフト能力を手に入れていた。幽体離脱をしていた転移者もいたらしい。
他にも精霊使いという精神生命体を使役するギフト能力などが確認されていて、普通の武器では戦いにもならない存在だったとされている。
なお、魔法には滅法弱かったらしい。
物理と魔法の両面で無敵になれるほどの凶悪なバランス調整はされなかったようだ。
いくつかの仮説では、この世界と重なる、次元の違うもう一つの世界が存在していて、精神生命体はそちらに本体があり、こちらにはプローブのような形で現出しているのではないかと言われている。
ドローンとドローン操縦者のような関係とする説もあり、本体が遥か遠くに存在する可能性も指摘されている。中にはガイア論のように大地そのものが一つの生命体で、精神生命体はその端末なのだという説もあった。
そうやって可能性について論じていたものは、あまり役に立たない。
検証しようにもとっかかりの無い、机上の空論である。
新庄にとって有用な情報は、そこから踏み込み「どうやって精神生命体は生きているのか?」という内容と、「精神生命体を人工的に作る事は可能か?」という部分だった。
その論文で、精神生命体は魔力ベースの生き物と定義していた。
いや。生命体に見えはするが、ある程度自立行動を可能にした“魔法”だと考えていた。
条件設定をかなり細かく行い、多様な状況に対応する魔法を突き詰めていくと、最終的に人工精霊が作られる。
そういう結論を出していた。
これは一人や二人の意見ではなく、多くの国の多くの学者が同じ事を言っている。
魔法で炎の矢を作って撃つのと、魔法で人形を作って人の様に振る舞わせるのと、何が違うのか?
難易度や必要魔力に差はあっても、根本的な部分は同じだ。
魔力を消費して求められる現象を現実にする。この基本だけは変わらない。
意識の連続性や記憶の有無など、そういった部分さえクリアすれば、より生物らしくなるだろう。
「すでにいくつもサンプルが有るのがいいね。
記憶の外部装置は外付けハードディスクよりも、クラウドに近い概念だなー」
新庄は海上に作った研究所で、貰ったデータの確認をする。
「必要素材には、御手洗の鱗とかが使えるかな?
高濃度の魔力残留物質って言うなら、これが一番条件に合うと思うけど」
魔術に落とし込みきれていない、魔法の再現試験。
危険の伴うそれをするのに、加倉井は明確に反対の姿勢をとったが、今後の安全を確保するのに必要だからと、新庄は押しきった。
敵が来てから準備するのでは、対策が間に合わない。敵がいないうちに、敵の姿を予測して対応するしかないのだ。そうでないと、どのような被害を受けるか分からない。
「これと結び付けをした、人工精霊。
素直な子ができるといいんだけどね。御手洗の鱗で作った俺の子供と考えると、どれくらい期待できるんだか。
ま、実験が成功しない可能性も高いから、あんまり気にしすぎる事もないか」
リスクを承知していても、新庄は躊躇わずに前に進む。
安全性の確保はできるだけやっているが、普通の神経をしていればそれでも躊躇しかねない。
目的のために、命を惜しまない。
新庄の中には、自分の命より大切なものが確かに有るのだから。




