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奇妙な一致

 じりじりと地上を照らしつけていた太陽が、ゆっくりと地平に沈んでいく。

 そんな夏の余韻を残しながら、暦の上ではすでに秋を迎えていた。



 ヒューティリアは昼間はこれまで通りに過ごし、夜になるとマールエルの手記に没頭する毎日を送っていた。

 一刻も早く読み進め、何故自分がマールエルやソルシス……ひいてはセレストの身に起きた過去の出来事を知らなければならなかったのか、その理由を見つけ出したかった。

 今日も今日とて、昨夜の続きの頁を開き、読み耽る。




──────────


◆5年と341日目 秋の月、下旬


 ようやく踏ん切りがついたので、今日は故郷の村を訪ねてみることにした。

 村の場所は全く覚えていなかったけれど、村の特徴を精霊や妖精たちに伝えて探して貰ったらすぐに見つかった。


 サナとレグにセレストを預かってもらい、空渡りの魔法で故郷へと向かった。そこにあったのは、占者を失い、集落の体を成さなくなった、記憶にあるよりずっと小さな村だった。

 若者たちの大半が村を出て、残っているのは年寄りばかり。その年寄りたちも気力がなく、虚ろな目をしていた。


 髪色も目の色も違う今なら気付かれないだろうと思い、私は最初に目についた老人に声をかけてみた。

 ロズ村を目指している途中で道に迷ってしまったと告げると、老人はやはり気力を失った目のまま頷き、ロズ村の方向を教えてくれた。

 その流れで何気なく村のことを尋ねると、老人は開口一番、自分たちが悪いのだと言った。


 この村にはかつて占者と呼ばれる者がいて、村の決定は全て代々の占者の言葉に従って決めていた。しかし十年ほど前、最後の占者が亡くなった。

 代々の占者は後継者を必ず示していたけれど、最後の占者は後継者を示さなかったのだと言う。何故なら、最後の占者は自分の立場を手放したくなかったがために、後継者となる者をすでに村から追い出してしまっていたからだ。


 占者が後継者を村から追い出すためについた嘘。それを見抜けず、その言葉を信じた結果、村の未来は消え去ったのだと老人は言う。

 私は老人に、その後継者が誰だったか知っているのかと訊ねてみた。すると老人は、懐かしい名を口にした。

 老人が口にした名は、今はもう捨ててしまったかつての私の名前だった。


 老人の話を聞いてそんな予感はしていたけれど、案の定だった。私がこの村の次代の占者となる人間だったのだ。

 けれど、私は最後の占者によって災いを呼ぶ娘と断定され、村を追われた。

 そして今。私は終わりに向かうこの村をどうこうしようとは思えなかった。


 最後に、その次代の占者になる予定だった人の家族はどうしているのか、大分遠回しに話題を変えながら聞いてみた。

 すると、両親はすでに他界。最後まで娘を捨てたことを悔いていたそうだ。兄弟に関しては、全員村を出て行ったらしい。もう戻ってくることもないだろうと言っていた。


 私は老人に礼を言い、村を後にした。

 もう二度と訪れることはないだろう。


──────────




 目を通した内容に、ヒューティリアは既視感を覚えた。

 マールエルの手記に綴られている村の風習や過去の出来事は、ヒューティリアの記憶と一致する点が多い。

 同時に、エインのことが思い出された。エインが語った彼の姉の話も、驚くほどヒューティリアの経験と一致していたからだ。


 そんなに複数の村で同様のことが起きていたのだろうかと考えた時、それは考え難いことのように思えた。

 しかしマールエルの年齢を推測してみた時、エインの姉はもしかしたらマールエルなのかも知れないと思った。姉弟として、年齢も釣り合う。

 この考えが当たりならば、ヒューティリアの知る限り同様の出来事は過去に三回ではなく、二回起きていたということになる。


 そう思うのが自然だ。

 なのに何故か、心臓が嫌な鼓動を刻んでいた。


 マールエルの幻を見た瞬間に感じた、知っているという感覚が蘇る。

 ふと部屋を見回せば、サナに「女の子なんだからこれは持ってないと!」と言われて置くようになった鏡が目についた。

 何気なく椅子から立ち上がり、鏡の前に立つ。


 そこに映る自らの姿を見て、鳥肌が立った。


(似てる)


 目に焼き付いている、幻のマールエルの姿に。


 まさか。まさか。

 何度もその言葉が頭の中で木霊した。


(そんなことあるはずない。でも、セレストはソルシスで、時繰り魔法を使えば──)


 思考はどんどん考えたくない方向へと転がっていく。

 しかし受け入れ難さのあまり、思い切り頭を振って浮かんだ考えを振り払った。


(そんなわけない。だって、代償は何?)


 記憶だ、とクロベルの声が聞こえた気がしたが意識の外へとはじき出す。


(誰が時繰り魔法を使ったって言うの)


 ソルシスはもういない。セレストも、考えられる時期にはまだ王国魔法師団にいた。

 しかもセレストははっきりと、真の時繰り魔法は使ったことがないと言っていた。セレストなわけがない。

 ならばマールエルが? という考えも過ったが、あれだけ時繰り魔法の失敗を悔いていたのだから、再び手を出すとは思えない。


(それに、手紙! マールエルさんからの手紙もあったし)


 セレスト宛に書かれた二通の手紙。

 ひとつは王国魔法師団に届けられたもの。もうひとつは、この家に残されていたもの。

 しかしそれは、ことを起こす前に用意することもできる。


 全てが不確定。

 ヒューティリアは胸の奥が冷えていくような感覚に陥り、床に座り込んだ。

 体が震える。

 秋とは言え、まだ残暑の残るこの時期に寒さを覚えるなんて異常だ。


(風邪……?)


 違う。わかっている。

 けれどどうしても、思い付いてしまった仮定から気を反らしたかった。


 そうしてどれくらい時間が経っただろうか。

 やがて部屋の扉がノックされた。


「まだ起きてるのか?」


 いつもならそんな風に声をかけてくることのないセレストが、声をかけてきた。

 思わず窓の外を見ると、いつの間にか空が白み始めている。


「あ……違うの。あのっ、ちょっと早くに目が覚めちゃって!」


 ヒューティリアは慌てて立ち上がり、そう返事をする。

 けれどそんな嘘、顔を見られたらすぐに見抜かれてしまう。なのに口が勝手にそう告げていた。


「そうか。だがまだ時間も早い。もう一眠りしておくように」


 まるでヒューティリアの嘘など見通しているかのような言葉に、ヒューティリアは泣きたくなった。

 扉の向こう側に聞こえないくらいの小さな声で「ごめんなさい」と呟く。


 遠ざかっていくセレストの足音を聞きながら、のろのろとベッドへ移動して倒れ込む。


(もう、何も考えたくない……)


 ヒューティリアはゆっくりと目を閉じ、全ての思考を遮断した。

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