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魔法薬 その1

 精霊や妖精たちの提案を受け、セレストはヒューティリアに魔法薬の知識を教えることにした。

 上の段階の魔法については以前と同じように上級魔法が載った本を渡し、ヒューティリア自身の希望を聞くことになった。


「魔法薬に関してはだいぶ前に一度説明したが、成り行きで説明しただけだから改めて説明する」


 そう言って、セレストは『魔法薬の基礎知識』という本を書棚から取り出した。

 聞いたことあったかな? とヒューティリアは首を傾げかけたが、改めて説明してくれるというのでセレストの声に意識を集中する。


「魔法薬は通常の薬よりも良く効く薬、もしくは通常の薬にはない特殊な効果を持った薬を指す。ただし、作成には魔法薬の知識を持った魔法使いと魔力を与えて育てた魔法植物、加えて妖精の力が必要になる」


 『魔法薬の基礎知識』を開いてセレストが指し示した箇所には図が描かれており、魔法使いが魔法植物を育てている絵と妖精たちの絵がひとつのグループとして囲われており、そこから矢印で魔法薬らしき薬瓶の絵が示されている。


「通常の薬にはない特殊な効果を持った薬もあると言ったが、そういったものは大抵違法薬だから作れば罰せられる」


 そう前置きして語られた内容は、おぼろげながらヒューティリアの記憶に残っているものも含まれていた。


 曰く。

 魔法薬に関しては決まりが多く、破れば重い罰則が設けられている。


 曰く。

 受注・製造・販売、その全てに於いて該当する行為をする者は国への登録が必要で、価格にも国が定めた最低額が存在する。


 国への登録をせずに受注・製造・販売を行った場合や国の定めを下回る、又は大幅に上回った価格で販売を行った場合、もしくは違法薬を受注・製造・販売した場合。その全てが重罪となり、その過程で関わった者にも罰則が適用される。


「罰則って?」


 純粋に疑問を抱いたヒューティリアが問うと、セレストは『魔法薬の基礎知識』の後ろの頁を開いて示す。


「内容と悪質さにもよるが、よくて登録取り消しや牢屋行き、そこに加えて多額の罰金。悪くて死罪だな」

「死罪……!?」


 驚きの声をあげるヒューティリアに、セレストは静かに頷いた。


「死罪は大抵の場合、違法薬を作ると適用される。それだけ悪用されたら危険な薬だったり、ものによっては命に関わるほどの重い副作用があったりもする」


 想像以上に重い刑に驚きはしたが、そう説明されると違法薬がどれほど危険なものなのかが伝わってくる。

 間違っても手を出してはいけないものだと強く認識し、しっかりと頷いた。


「価格に関する罪は基本的に重い罰金と禁固刑がほとんどだな。二度目以降は問答無用で登録抹消。二度と登録ができなくなる。登録せずに受注・製造・販売のいずれかを行った場合も、やはり罰金に加えて禁固刑、こちらも生涯に渡って魔法薬の受注・製造・販売に関わる登録が不可能になる。更にどちらも悪質なまでに繰り返した場合は死罪になる」


 淡々と語られる厳しい罰則に、ヒューティリアは気が引き締まる思いがした。

 同時に、国が魔法薬を安易に出回らせないようにしていることが窺えた。


「そこまで厳しい規則があるのに、禁止にはしないの?」

「禁止にしてしまうと都合が悪くなるのは富裕層だ。ある意味金さえ払えば効きがいい、もしくは普通の薬では治せない病をも治せる薬が手に入るのに、その道を断つのは避けたいんだろう」


 それに、とセレストは続けた。


「何でもそうだが、一度身に付けた技術も使わなくなれば劣化し、やがて忘れられていく。魔法薬を禁止することで、いざ必要となった時に誰も作れないのではまずいというのもあるんだろう」


 例えば王族。

 国を率い、支える彼らに魔法薬でなければ治せないような病が降りかかったとき、唯一の救う手立てである魔法薬を作れる人間がいないのでは困るのだ。

 そういう背景もあって禁止には踏み切らず、厳しい罰則を設けることで危険な魔法薬の製造をさせないよう戒め、安易に取引できないように抑制している。


 そこまでヒューティリアに説明すべきか一瞬悩み、結局セレストは全てヒューティリアに話して聞かせた。まだ子供だからと伏せる意味があまり見出せなかったからだ。

 ヒューティリアは年の割にしっかりしているし、多少難しい話でも理解する。ならば子供と侮らず、知るべきところは全て教えるべきだと判断した。


 ヒューティリアは真剣に話を聞き、セレストが想定した通り、しっかり理解して頷いた。

 むしろ。


「魔法薬の技術を継承するのも、魔法使いの大切な役目……ってことだよね?」


 セレストが想定していた以上に考え、魔法使いという立場に立つ者として的確な答えを口にした。

 思わずヒューティリアの真剣な表情をじっと見つめ、やがて口許に笑みを浮かべる。


「その通りだ。正直なところ国の事情は俺たちにとってはどうでもいい話だ。が、規則は破ることがないよう覚えておく必要があるし、決まりを破ることで周囲に迷惑がかかるのも避けたい。そうした中で、俺たち魔法使いは魔法薬を継承していく必要がある」


 王侯貴族のためではなく、いつか魔法薬を必要とするであろう全ての人のために。


 言葉にしない意図が、不思議とヒューティリアにはわかった気がした。

 脳裏に浮かぶのは、以前セレストが作った魔法薬で命を取り留めた青年の姿。死を待つばかりだった青年は、まだ生きることができると心の底から安堵し、喜んでいた。


 きっとあの青年のような人々のためにも魔法薬は必要なものなのだ。

 だから国の定める魔法薬の最低価格は、平民から見て高額であっても全く手が出せないというほど高額な設定ではないのかもしれない。

 とは言っても、貧しい家庭ともなるととても手が出せるものではないのだが。




 その後は魔法薬の材料の組み合わせについて簡単に説明され、組み合わせを間違えるだけで毒薬になり得るから扱いには細心の注意が必要だと念を押された。

 ヒューティリアは真剣に話を聞き、言われた言葉をしっかり頭に刻み込んだ。

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