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そして、彼は……

……………………


 ──そして、彼は……



 私たちの活躍はガリアの新聞の一面を飾った。


「『ウォースパイト、空賊を退治!』『王立空軍活躍。人質は全員無事』と」


 私はアーサーが開いている新聞を横から見ながらそう読み上げた。


「これでガリアと同盟できそうですか?」


「少なくとも市民はアルビオンに強い好感を抱いてくれている。状況はフリードリヒ・デア・グロッセがルーテティアに襲来する前までに戻ったと言えるだろう」


「なら、希望はありますね!」


「ああ」


 翌日にはアルビオン外務省から派遣されていた特命大使であるエイコート卿が、ガリア政府と相互防衛条約について話し合いを始めたと知らされた。


「諸君! 我々の任務は成功した!」


 イーデン大尉がハンガーで宣言する。


「これでガリアは我々の力強い同盟者になってくれるだろう! 諸君らのおかげであるとエイコート卿からもお言葉を授かっている! よくやってくれた!」


 イーデン大尉の言葉に私たちは笑顔だ。


「それでは、今日がガリアで過ごす最後の日となる! 1830(ヒトハチサンマル)まで自由行動としてよい! しかし、1分でも帰りが遅れた場合はガリアに置いていくのでそのつもりでいろ! 以上だ!」


「了解!」


 やったー! 最後にガリアで遊んで帰れる!


「ストーナー伍長」


「どうしました、ジョンソン中尉? ああ。一緒に遊びに行きます?」


 ここでアーサーが話しかけてくるのに私がそう応じる。


「君を食事に招待したい。決して堅苦しい食事ではないので安心してくれ。その、君に伝えたいことがいろいろとあるんだ」


「もちろんいいですよ。何時からですか?」


「今からだ。大丈夫だろうか?」


「ええ。行きましょう、ジョンソン中尉!」


 私はアーサーに誘われてルーテティアの街に繰り出した。


 ルーテティアの街はとても賑やかで、様々な人たちがいた。


 急ぎ足で進むスーツの男性。話しながら歩いているご婦人方。路地でボール遊びをしている子供たち。そんなにぎやかな街だ。


「あんたたち、アルビオン空軍の人かい?」


 そこで私たちは声をかけられて振り返る。


「そうですが」


「空賊、対峙してくれたんだろう。ありがとう!」


「こちらこそありがとうございます」


 この人が声をかけてから街の人たちが私とアーサーの軍服を見て集まってきた。


「ありがとう、アルビオン空軍の軍人さん!」


「これからも頑張ってくれ!」


「君たちは我々の本当の友人だ!」


 口々にお礼や賞賛、励ましの言葉をかけられ、私たちは顔を真っ赤にしていた。


「ガリアの人たちの好意は勝ち取れましたね」


「ああ。無事に任務を果たせた。よかったよ」


 人混みから解放されると私とアーサーはそう言葉を交わして微笑み合った。


 アーサーはそれから案内すると言っていたレストランへ私を連れていった。レストランは高級そうなお店だったが、出す料理は格式張っていない家庭料理のコースだとアーサーは説明してくれた。


「誰もいませんね?」


 しかし、この店には店員の他に客がいない。


「ブラン閣下に頼んで押さえておいてもらった店だ。今日は我々の貸し切りだよ」


「貸し切り……」


 まずはチーズを使ったお通しが運ばれてきて、私たちは食前酒をちびりとやって、それを味わった。チーズはやはりガリアのものが美味しい。


「ロージー。今回も君に助けられた。命を救われるだけでも2度だ」


「戦友なら当然のことです。アーサーも義務を果たしていましたよ」


「いや。私にとってはそれだけではないんだ」


 アーサーはそう私に訴えかける。


「君という存在は私の中でずっと大きな存在になっている。君のことを考えずにはいられないぐらいに。率直に言えば、私は君のことが、好きだ」


「!?」


 私は思わず目を見開いた。


「友人として、ですよね……?」


「違う。戦友としてでも、ただの友人としてでもない。君を女性として、異性として、愛すべき人として……好きだ」


「それは……」


 アーサーの言葉に私は何を返していいのか分からず口をパクパクさせる。


「けど、その、私は男爵家からすら逃げたほぼ平民ですよ。そして、あなたは王族です。身分が釣り合いませんよ」


「ああ。その点は嫌になるほど理解している。だから、私はこのままアーサー・ジョンソン空軍中尉として生きようと思っているんだ。王室を離脱して、私も平民として生きようと、そう思っている」


「ええ!?」


 冗談で言っている口調でも、表情でもない。


「駄目ですよ! アーサーにはまだまだやるべきことはあるんじゃないですか?」


「そんなことより君とともに生きたい。君と家庭を作りたいんだ。駄目だろうか……」


「うう。それは……」


 アーサーが捨てられた子犬みたいな顔をするのに私は視線を泳がせる。


「今はまだ駄目です。私はまだ空軍で働きたいですから。けど、私が空軍を除隊するときにアーサーの気が変わっていなければ……いいです」


「本当か!?」


「ええ。それまで待ってくれますか、王子様?」


 私はアーサーにそう尋ねた。



「もちろんだ。君のことをずっと待つよ」



 これは男装令嬢と身分を隠した王子の、仮面をかぶったふたりの恋のお話。



……………………

これにて完結です。お付き合いいただきありがとうございました。


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