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再会 ~All That I Needed(Was You)~  作者: あだちゆう
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クラカーマ

朝日が地上を照らし出すころ、馬車は東の国の巨大な駅舎に到着した。


ハンスの旅は、東の国の古都、クラカーマから始まった。

そのころには、すっかりアウレリウス王の本は読み切ってしまい、彼はその街を歩く一歩一歩から呼吸の一つ一つまでを「宇宙の法則」と同化させることを心がけていた。

そして、ゆっくりとその街を散策しながら、思索にふけった。


古都クラカーマの中心には巨大な大通りが続いており、その先にはかつての宮殿や神殿の跡があった。ハンスは、その大通りを宮殿跡に向かって歩いた。

途中で、店に立ち寄り一枚の葉書を買い、その場で西の国の自分がお世話になっていたところの教会対して感謝や自分の感じていることを書き綴って送った。彼にとって、旅先で便りを出すことはもはや習慣になっていたのだ。

《いままでいろいろとご迷惑をおかけしましたが、支えになってくれたことに心から感謝しています。》

そうとだけ綴って、ポストに投函する。

門をくぐり長い階段を上がり終えると都の神殿跡にたどり着く。

陽は少しずつ傾いており、振り返ると古都全体に切なさや郷愁めいたものを感じさせる。

彼は、人でごったがえした神殿の前でこれから出会うであろうすべての人びとの幸福と助けを祈った。


賢者アウレリウスとともに、会いたいと思い憧れていた「勇者」に会いに行った。

と言っても、「彼」は古都に生きた過去の人物だが。

大通りの脇に、二千年前に生きた「勇者」の碑が、ひっそりとたたずんでいた。

勇者の名は「レン」といった。「太陽のハス」という称号をその勇者は、その古都と大陸全体が宇宙からの侵略者に滅ぼされようとした時に一人立ち上がった。何度も王に宇宙からの侵略への対処を講じた。しかし、時の政府からは全く理解されず「反逆者」と言われ、何度も殺されかけた。

しかし、処刑されようとするたび、繰り返しレンの上に「太陽のハス」が現れ、処刑人を打ち倒したり、逃げ道を示したり、それこそ雷のような驚異的な力で繰り返し守られ続け、窮地を切り抜け、ついには宇宙船に単身数人の仲間で乗り込み自らの命と引き換えに、地球を侵略者の手から守ったのであった。

「太陽のハス」とはどういう意味か。

ハンスにはそのことが全く分からなかった。


賢者であり王であったアウレリウスが「宇宙の力」を静寂(せいじゃく)(たた)える湖のごとく静的に使いこなし、一切を結びつけたのに対して、勇者レンは地下のマグマが噴火するような、雷が地上を撃つような動的な力をもってこの力を爆発させ続けた。


勇者や賢者一人の力は、同じ人間であっても一億人を超える人間を集結させたところで及ばない。

この碑は、勇者レンが在りし日のころ、都のこの場所でいつも危機を呼びかけ戦っていた場所なのだ。

何度も、本や歴史書で読み胸が打ち震えたあの勇者や賢者も今や歴史からは取り残され、その碑だけが風に吹かれて街の片隅で孤独に立っているのみである。


ハンスは振り返り、大通りを引き返し、海に行った。海が見たかった。無性に海が見たかったのだ。

海には太陽が沈もうとしていたが、それでも暑い日であったので、数多くの人びとが海水浴を楽しんでいた。

大きなリュックを背負った場違いな姿で彼は砂浜を物思いにふけりながら歩いた。

さざ波の音も太陽も、彼にあらゆる語り掛けをしてくる。


そこで、ハンスは浜辺に座って、太陽が沈みゆくのをじっと見ていた。

酔っぱらった人から、「兄ちゃん、何をしとるんじゃい。修行か。」と冗談交じりで言われ、ハンスは冗談交じりで笑いながら返した。

たが、このたそがれている時は何か大きな宇宙の流れに自分が乗っかっていることを感じるのだ。

一切が平安に満ちていた。

ハンスは彼らの一切と、宇宙の呼吸と自己が調和していることを感じていた。

太陽が沈みかけるのとともに、人びとが引き潮のように浜辺から里のほうにわいわいと引き揚げていく様子は、まるで太陽が引くことと、夜が来ることと、多くの人間の動きというものもこの宇宙に動かされていることを示すなによりの証拠であった。



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