20、四人
王立学園の朝は、いつもより少しだけ騒がしかった。
廊下を行き交う生徒たちの話題は、今日から学園に加わる転入生のことで持ちきりだ。
「転入生って、どんな子なんだろうね」
隣を歩くルネが、興味深そうに首を傾げた。
「さあ? 会ってみればわかるんじゃない?」
「それはそうだけどさ。もうちょっとこう、楽しみとかないの?」
「あるよ。どんな子なのかなって」
「……セシリアって、たまにすごく淡白だよね」
「そうかな?」
「そうだよ」
ルネは少し呆れたように言った。
そんな会話を交わしながら、私たちは転入生を迎えるため、指定された教室へと向かった。
新しい出会い。
それ自体は珍しいことではない。
それでも、誰かが加わることで、今まで当たり前だった日常が少し変わることもある。
そんなことを考えていると、廊下の向こうから二人の姿が見えた。
片方は、落ち着いた雰囲気の少年。
もう片方は、彼の隣を歩く少女だった。
二人とも、今年十五歳になったばかりだという。
「初めまして。今日からこの学園に通うことになりました、ルインです」
少年は私たちの前で足を止め、穏やかに頭を下げた。
「リゼットです。よろしくお願いします」
隣の少女も、丁寧に挨拶をする。
「私はセシリア。こっちはルネだよ。よろしくね」
「よろしく」
ルネも短く挨拶を返した。
その瞬間だった。
私は、なぜかルインから目を離せなくなった。
初対面のはずなのに。
以前どこかで会ったことがあるわけでもない。名前を聞いた覚えもなければ、顔に見覚えがあるわけでもない。
それなのに、胸の奥がほんの少しだけ揺れた。
懐かしいような。
けれど、何を懐かしく思っているのか、自分でもわからない。
「……セシリア?」
ルネの声で、私は我に返った。
「あ、ごめん。ちょっと考え事」
「ふうん?」
ルネは不思議そうに私を見たあと、ルインへと視線を移した。
その目が、一瞬だけ細くなる。
ほんのわずかな違和感。
ルインの魔力に、何か引っかかるものを感じたのだ。
しかし、それはすぐに消えてしまった。
「どうかしましたか?」
ルインが二人を見比べる。
「ううん。なんでもないよ」
ルネはいつもの調子で答えた。
「そっか。ならよかった」
ルインは特に気にした様子もなく、柔らかく笑った。
その笑顔には、隠し事をしているような不自然さも、こちらを警戒する様子もなかった。
彼はただ、初めて会った同級生として、私たちに接している。
それだけだった。
「教室、こっちだよ。案内するね」
「ありがとう、セシリアさん」
「セシリアでいいよ。同い年なんだし」
「わかった。じゃあ、僕もルインでいいよ」
そんなやり取りをしながら、私たちは教室へ向かって歩き出した。
隣ではリゼットとルネが、学園の授業について話している。
ルインも時折会話に加わり、楽しそうに笑っていた。
何も特別なことはない。
転入生を迎えて、少し話をして、一緒に教室へ向かう。
ただ、それだけの朝だ。
それなのに私は、隣を歩くルインの横顔を、何度も見てしまっていた。
どうしてだろう。
この感覚の正体は、まだわからない。
けれど、今は無理に答えを探さなくてもいい気がした。
ルインはルインだ。
私の知らない場所で生きてきて、これから同じ学園で過ごしていく、一人の少年。
それ以上でも、それ以下でもない。
「ねえ、セシリア。今日のお昼、一緒に食べようよ」
ルネが振り返って言った。
「うん。リゼットとルインもどう?」
「いいんですか?」
リゼットが嬉しそうに尋ねる。
「もちろん」
「じゃあ、ぜひ」
ルインも笑顔で頷いた。
こうして、私たちの日常に二人が加わった。
セシリアとルネ。
ルインとリゼット。
四人で過ごす、これからの日々。
この出会いがどんな未来につながっていくのか、今の私にはまだわからない。
だからこそ、まずは一緒に笑って、一緒に過ごしてみよう。
きっと、それでいいのだと思う。




