プロローグ
20××年 12月24日
映画館でのバイトを終えて外に出ると、カップルや家族が楽しそうな笑みを浮かべていて眩しかった。
口から溢れる白濁した吐息が孤独な俺を嘲笑うかのように踊り出し、聖夜に溶け込んでいく。
いつから、こんな風になってしまったんだろうかと俯きがちに足を進めた。
今年も残り数日で終わりを迎え、来年にはいよいよ三十歳になってしまう。それなのに、家族どころか恋人や友人もいない。就職することすらもできずに大学時代に始めた映画館でのバイトをこなす日々。
この日常に意味はあるのだろうか。
自分に問いかけてみるも、無意味という文字が脳裏に浮かんでは再び息を漏らした。
同級生の奴らの中には大金持ちになって美人の嫁さんを貰っていたり、そこそこの仕事と年収で異性との出会いに投資をしてそれなりの幸せを掴んでいたりするんだろう。
いくら学生時代にリーダー的存在として目立っていようとも社会に出ればなんの役にも立たないんだと思い知らされる。
それどころか当時目立っていなかったような冴えない奴らがモデルデビューしていたり、大手の企業に就職していたり、起業していたりする世の中だ。
かつては何か大きな夢や目標があったような気がするが、忙しなく過ぎていく現実に何度も心を折られては生きる意味を失ってしまった。
今、こうして生きているのは、死ぬのが怖いから。
映画館のあるショッピングモールを出てすぐの交差点で信号に停められていると、スルリと何かが通り過ぎた。
それがベビーカーだったんだと気がついた時、トラックが止まれない距離にまで迫っているのが見えた。
たった一瞬の出来事のはずなのに世界はゆっくりと流れる。
なんとかしなきゃと思った時には、すでにベビーカーに手を掛けていて、自分の行動力に呆れたような笑みが溢れた。
掴んだベビーカーを夢中で反対側の歩道へと押し出し、やけに大きな光の塊が近づいてくる様を眺めていた。
キーという耳に障る甲高い音。
ゴムがアスファルトに擦れて溶けた独特の匂い。
硬いものにぶつかる衝撃音。
痛い。そんな言葉すらも出せないくらいに身体が機能を失っていた。
既に視界は閉ざされていて鉄の匂いと失っていく体温だけで死に近づいていることが明白だった。
どこからか赤ちゃんの喚き声が聞こえてきて、救われた命があったことに安堵し身体中の力を抜いた。
どうせ死ぬなら、最後くらいポップコーンでも食べておくんだった。
うちのポップコーン。世界一美味いからな。




