ファイト~頑張ってくれ。
楽しんでいただけたら幸いです。最後まで読んでみてください。
なんか、勝負っていう割には若干地味だなあ。
俺はモルとロサが石をバランスを崩さないように積み上げていってるのを見て、そう思った。
...まあもっとバチバチのバトルみたいなやつを見たかったのは言うまでもないが。逆にこっちの勝負の方が平和だから、モルに自分の体を使われてる身としては、安心ではあるが。
というか、逆に本人たちにとっては、これでいいのだろうか。
バチバチに勝負するとか言ってたのにな。
まあ本人たちはいたって真剣にしているから、問題ないか。
ちなみに、この勝負はどちらがより多く石を、積み上げることができるのかという勝負らしい。この勝負の勝敗の決め方は、忖度なしで、積み上げられた石の数を数えることで決めるらしい。このバチバチ具合だと、忖度も何もないだろうが。
俺は俺で個人的にどっちがよかったかを決めよ。俺はちゃんと公平に判断するけど。
とすると、造ってる過程は見ちゃいけないか。それじゃあ、何をしようかな...?
なんか、ここでは想像したら出てくるらしいし......スキルの説明も見れんのかな?機能とかよくわからんかったしな。
とりあえず、スキルの一覧でも見れんのかな?
さっきの『冒険者証明書』だっけ?それを想像してみよ。
おっ、出てきた。ほんとに想像通り出てくるんだな。なんとなく空中に浮かんで出てくるイメージしたけど、まんまだ。
中身も見れると思うけど...だって、食べ物を想像した場合、記憶にないものでも味が分かるんでしょ?だったら、記憶になくてもスキルのことも書いてあるかもしれない。つまり、『???』になっているところも分かるかもしれない。
ええと...?確かスキルの最後の一つが分からなかったところだよな?
えっ!?水魔法の使用!?それって、魔法が使えるってこと?
あれ?なんか、説明も見れるな。
“スキル『水魔法の使用』は均衡守護者の一人、モルベディング・ゴドランのスキルが譲渡されたもの。水の操作を行うことが可能で、水の状態を自由に変更することができ、空気中に含まれている水も利用することができる。現段階では一日に10回使える。これを超えて使用すると、高熱になり、それと同時に脱水症状になる可能性がある。しかし、さらなる可能性も眠っている。(本日の使用回数残り9回)”
...なんか、シンプルに強くね?水の操作を行うことができるって...かなり強いぞ?だって、水を刃みたいにすることもできるし、相手を凍らせることもできるし。
まあ、一日に10回っていう、制限はあるらしいが。
というか、残り九回って、モルはいつ使ったんだろうか?使ってる様子はないけど...まあいいか。
にしても、『さらなる可能性』ってなんだろうか。気になるんだが。条件もわからないし、これ以上も知りようがないが。
......他のも詳しい説明が見れるらしいね。ちょっと見てみよう。
......オッケー。大体把握できた。まあ使い方はまだわからないから、まだ完全には理解できたとは言えないけどな。
そういえば、モルとロサが勝負してたんだったな。今はどんな感じかな...?見てみよ。
まずはモルの方だな。こっちは...おー、結構高いなあ。普通に石で塔ができてるし。って、ちょっと待てよ?さすがに5メートル級は高すぎん?あれ?そもそも、どうやってそんな高く積んでいるんだ?
そう思っていたら、地面から氷が生えてきた。氷が生えてきたっていうパワーワードだが、事実地面から生えてきたのだ。多分、さっき見た「水魔法の使用」っていうスキルを使っているんだろうな。
ってことは、さっき回数が減ってたのもモルが使っていたからなのか?
もう一度『冒険者証明書』を見てみる。回数を見てみると...減ってなかった。ちゃんと九回のままだった。多分、元々のスキルの持ち主である、モルが使う場合なら回数とかはないんだろうな。
なおさら分からなくなったぞ?なんで回数が減ってたのか。心当たりもないし、今考えてもどうしようもないが。
今できない問題はとことん後回しにして、次はロサの方も見てみよう。
こっちは...ちょっと待って!?おかしいんだけど!?
なんで、石を積み上げて、8メートルぐらいする巨大な龍ができてんの!?しかも、まさに画竜点睛の瞬間を切り取ったように、縦に造られてるし。
どうやらどっちも造り終わったようだ。どっちもバケモンだろ。多分接着剤なしで作られてるしな。ロサの方に関しては、石一個で上をすべて支えてるし。高さだけでなく、デザイン性さえも織り交ぜるという、ものすごいことをしている。
これはどっからどう考えてもロサの勝ちだな。
モルもさすがに負けを認めたように白旗を上げてるし。ちょっと待て。どっからその白旗は出てきた?
あれ?じゃあおかしいな。造られたものに対しての河原の大きさと石の量が釣り合わない気がするんだが。
「今回は負けを認めておこう。じゃが、次は妾が決める勝負よ。お主、覚悟はよいか?」
「素直なんだね。僕はいつでもなんでも受けて立つけど!」
お互いバチバチに火花を散らしている。次の勝負が楽しみになってきたから、放棄しておこう。さっきの問題は。倒置法っていいね。やっぱ。どうでもいいが。
「次の勝負は、どっちがより早く、あっちの湖を泳ぎ切れるかじゃ。別に船なども作ってよいが、それまでは待つから安心して、妾に勝てるように精々あがくんじゃな。」
とのこと。つまり?ただ泳ぐだけの勝負ってことか。んなわけないか。どう考えても水を操作して、自分が速く泳げるようにするんだろうな。
結構大人げないな。
『わかっておる。だからこそじゃ。』
おお、ビックリしたあ。急に声が響いてきたから驚いたわ。
『すまんの。それはそうと、さっき言った理由じゃ。』
あえて大人げなくしているってこと?
『そうじゃ。さっきのあやつを見て分かったが、おそらくあの石を積み上げた作品はスキルの類を使っておる。そう考えると、あのバランスで積むことはできん。』
確かにテレビで、ものすごいバランスで石を積み上げる名人は見たけども。さすがにあそこまでは高くなかった気がするな。
『じゃから、本当にスキルを使ってるのかを確認するためにも、向こうに渡る手段を作らせるんじゃ。どんなものを作っても妾は負けんからの。無論、あちらが乗るかどうかだが。』
でもあのロサの様子を見る限りは問題ないと思うけど。なんか作り始めてるし。
『そうじゃな。勝負という形じゃから、断りようもないしの。』
こうやって見てると、出来上がるまでがとてつもなく速いな。しかも、水の抵抗を受けにくい感じの形状してるし。
...ちょっと待て。おかしい。あれを作ってる材料はどこから出てきたんだ?明らかにそこら辺にあるような材質じゃないんだが。ポリエステルっぽいが、そんなものはここら辺のどこにもなかった。
『おそらく、「変質」の類のスキルじゃろう。過去に聞いたことがある。物体そのものの性質を変化させるスキルじゃ。簡単にいうと、お主の「イメージクラフト」の上位互換のようなものじゃ。お主の場合は材料自体を変えることはできぬだろう?』
いや、俺に聞かれてもわからんし。
『まあそうだろうな。例えば、木は腐るじゃろ?だが、このスキルを使えば、一生腐ることのない木にすることができる。たとえ、ずっと水に漬けていてもな。他にも水や空気の抵抗をほとんど受けないようにしたりな。』
なんそれ?普通にチートなんだが。
『ああ、しかも吸血鬼ときた。まともにやりあえば面倒なことこの上ない。』
......俺には全く面倒とかは分かんないんだが。
『別に気にしないでもよい。そこで見ておれ。お主が記憶を取り戻したらまたバトンタッチしてやろう。』
それまで俺はここに居ろってことですね。知らないよりは、知ってる方に任せた方が確かにいいから、そうしとくわ。
『もうすぐ来るようじゃな。いいか?勝負中は話しかけるでないぞ。』
さっきと一緒ってことですね。おとなしく見とくわ。
結局、ロサはカヌーのような持ってきていた。今の間に作ったようだ。いや、出来上がりの速さがおかしいでしょ。
二人は一度視線を交わすと、横隣りに並んで、湖に飛び込む準備と、カヌーを漕ぐ姿勢をとった。
二人は掛け声をしたわけでもないのに、同時にスタートした。
言い忘れてたが、湖の向かいまでは100メートルほどある。
両者好調のスタートダッシュ(?)を決めたが、ロサはグングンと突き放していく。
しかし、次の瞬間、ロサが見えなくなった。正確には、モルが水中に潜ったため、水上のロサが見えなくなっただけなんだがな。
モルは水中をものすごいスピードで泳ぎ進んだ。
......一応モルの上を見てみたが、特にロサは見えない。むしろ、後ろの方にロサがいた。
はじめはかなり離されてたが、いつの間にか追い越していた。
しかも、よくよく気泡の進む向きを見てみると、モルの周りでは、かなりの速さで前に気泡が進んでいるが、それより後ろを見てみると、気泡が後ろに向かって進んでる。
多分、水を操作して水の流れを作ってるんだろうな。それに乗って泳ぎ進んでる感じかな。
......一つ指摘するなら、モルがなぜ犬かきで泳いでいるのかだ。というか、泳ぐというより、もがくの方がより正しい表現かもしれない。
『気にするでない。妾は水は操作できるが、昔から水を操作していたゆえ、泳ぎは得意でない。ただそれだけの理由じゃ。』
そういうことか。考えとしては、勉強ができるから、運動はできなくてもいい。みたいな考えでいたんだろうな。結局、どっちが先に泳ぎ切るかという勝負なのに、どっちもまともに泳いでないというね。
結局、モルの妨害と自分へのバフが勝ち、圧倒的な差でモルが対岸に行きついた。ロサとは数十メートルほど離れている。
これはモルの圧勝だな。
それからすぐに、ロサがこっちへとたどり着いた。
「いやあ、モルさん早いんだね。まるで僕じゃ全然追いつけなかったよ。」
と、そんな気が抜けそうな声でこっちへと近づいてきた。
相変わらずニコニコしているため、何を考えているのは分からない。だが、相手が有利な勝負とはいえ、負けたことへの悔しさが見えている。
「さて、これで一勝一敗じゃの。これは勝負という形になっておるが、今降参でもするなら、後悔する程度に叩いてやるが、どうする?」
その様子を見たモルが少し煽るように、ニヤニヤしながらロサへと近づいていく。
はたから見ると、俺がニヤニヤして近づいているので、不審者が近づいているような絵面である。
一方、モルの煽るような言葉を聞いたロサは、全く煽りを真に受けた様子はなく、特になんとも思ってないようだった。逆に不敵な表情でロサは、言う。
「逆に聞くけど、そっちこそボコされる準備は出来てる?」
と。
今回はさっきまでとは違い、バチバチではなく、静かに火花を散らしている。さっきが線香花火とするなら、今はライター火を付けているようなものだ。......よくわかんねえな。この例え方は。
「それじゃ、始めるとするかの?」
「うん。10秒経ったら即スタートでいいよね?せーのっ!」
その声で両方は同時に動き出した......
なんの勝負するのかがまだよくわかんないんだけど。
いかがでしたでしょうか?今回は、モルとロサが勝負をしていましたね。蒼汰も少しずつ慣れてきているようでしたね。最後の“勝負”は一体何なんでしょうかね?次回も楽しみにしていただけると幸いです。
次回の投稿も来週の金曜日の予定です※都合上、遅れてしまう可能性があります。
それでは、また次回お会いしましょう。




