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54.75 フィリップ

コメント、ありがとうございます!

「...ベティ」

 呆然と、マリアンナが呟く。

 その反応は、予想していたものだ。

 これでようやく、私は止められる。

 エリザベスをケインと同じ魔法にかけた直後のこと、何の偶然か、はたまた必然か、マリアンナがこの部屋を訪れた。

 ちょうど迎えに行こうとしていたから手間が省けた。

 私は、マリアンナを部屋に入れると、床に倒れたままのエリザベスを見せつけた。

「どうだ、私の力は凄いだろう」

 そんなことを言ったが、マリアンナは聞いていなかった。

 ただただ、眠るエリザベスを見て、呆然としている。

「...貴方がしたんですよね」

 ようやく、マリアンナが私を見た。

「ああ、そうだ。これでお前と私とを引き裂く者はいなくなった」

「...へえ」

 嬉しくないか、そうだろうな。

 こんなことをされて、嬉しい筈がない。

 エリザベスがさっき言っていたこと、エイデンが私から意図して離れたというのは私の勘違いで、すれ違っているのかもしれないということ。そんなこと、本当はもう分かっているのだ。エイデンは兄である私を、家族をどうでもいいなどと思うことはないと、エイデンはそんな者ではないと、そんなことは、もう分かっている。

 けれど、仕方がないではないか。

 それを認めてしまったら、今まで私がしていたことは、全て、何の意味もないことになってしまう。

 認めたくない。私自身がそれを認める訳にはいかない。他者から否定されない限り、認める訳にはいかない。

 それに、私が一時でもエイデンを憎み、ケインとエリザベスを消すと決めたことは事実なのだから。

 もう、自分自身では止められないのだから。



 マリアンナと初めて会ったのは、私がまだ九歳の時だ。

 あいつの婚約者であるオリヴィアとは、だいぶ仲良くなっていて、ある時オリヴィアは、私が一人でいるのを見かねて、私と同い年である妹を、連れて来てくれると約束した。

 その約束通り、城でパーティーが行われた際、オリヴィアは妹を私の部屋に寄越した。

 それがマリアンナだった。

 オリヴィアはかつて初めて私を見た時、「わあ可愛い!貴方、とっても綺麗な色の髪と目を持ってるね!」と目を輝かせた。そんなことを言われたことがなかったから、意味が分からなかった。

 オリヴィアは、何かと私を気にかけてくれた。彼女には、感謝すらしている。

 その妹であるのだから、私を見てどんな反応をするかと思ったら、何もなかった。

 マリアンナは私を見て、「あ、どうも。オリヴィアお姉様から言われたので来ました。よろしくどうぞ」と言っただけだった。

 マリアンナには、最初に魔法をかけていた。もしマリアンナがオリヴィアと違い、私を厭うならば、私に関する記憶を消さなくてはならない。

 だが、マリアンナは私の外見など気にしなかった。

 だから、魔法を解こうと思ったのに。

 マリアンナを姉と呼ぶ少年が突然現れて、マリアンナを連れ去った。

 おかげで、マリアンナとろくに話も出来ないまま、彼女は私のことを忘れた。

 だが、まあいいと思った。

 マリアンナは私を厭うことはなかった。それだけで十分だった。

 何度か、マリアンナの姿を陰から見ていたが、彼女は、外の世界で輝いているように見えた。

 その後、思いきって、エイデンへの嫌がらせでこの学園に赴き、アリスとかいう平民を操ることにした。私は自身の愛称である(オリヴィアがつけてくれた)フィルから取って、魔法使いイルと名乗った。エイデンからケイン、そしてエリザベスを引き離す様を見せるのが目的だった。

 だが、平民ながら強力な魔法使いであるローレンに阻まれた。

 それでも、私は止まらなかった。マリアンナが私のしたことに気付きながらも何故か私のことをローレンに話さなかったおかげで、私のしたことは周囲に何も知らされることはなかった。私は、マリアンナに自首するなどとほざいたが、私が自分でそんなことを出来る筈なかった。私は、止められなかった。



 さて、思い出話はここまでにしよう。マリアンナは、エリザベスの親友であるマリアンナは、私を許しはしないだろう。

「...貴方、別に不可抗力で、こんなことをしたのではないんですよね」

「...私の意志だ」

 マリアンナの様子が、おかしくなっていく。

「...何故、こんなことを?」

「こいつは邪魔な存在だったからだ。お前も嬉しいだろう?」

「...嬉しい?」

「エリザベスが消えて、嬉しいだろう?」

 瞬間。

 マリアンナが豹変した。

「ふっざっけんじゃねえぞてめえ!!!よくも俺のベティちゃんをこんな目に合わせてくれやがったな!!」

 マリアンナが、吼えた。

 叫ぶのとも喚くとのも違う。吼えた。

 予想以上の反応にたじろぐ私に、マリアンナは掴みかかってくる。

「ベティちゃんが消えて嬉しいだあ!?俺としてはてめえみたいな勘違い野郎が消える方が何百倍も嬉しいんだよ!!何が、これでお前と私とで幸せになれるね、だ!不幸過ぎて逆に笑うわ!!いいか、十秒だ、十秒だけ待ってやる。十秒以内にベティちゃんを元に戻せ!!じゃねえとてめえの指折ってやんよ!!」

「な、なんっ...」

「はい、じゅー!きゅー!いいかてめえ戻さなかったらマジで指一本ずつ折ってくかんな!!はち!ななろくごーよんさんにーいちぜろ!!はい一本!」

 何が起きているのか理解出来ていないうちに、マリアンナが私の指に手をかけた。そして凄まじい力が込められる。

「ぎゃああああああ!?」

 私は何だかんだで今まで怪我というものをしたことがなかった。私にとって、その凄まじく恐ろしい痛みは、私の、かつて抱いてそのまま残ってしまった、エイデンへの怒りや不満といったものを粉々にするには十分だった。

「マジで折るぞ!!いいのかよ!?」

「...あ、があっ...ぐう...まっ、待て...い、言うことを、聞く...!離し...!」

「下手な真似したら一気に三本いくぞ」

 とんでもなく恐ろしい脅しをされ、私は考える間もなくがくがくと頷き、エリザベスの魔法を解いた。マリアンナ怖い。まさか力業でくるとは思ってもいなかった。

「フィリッパさん!貴女!一体何を騒いでい...いやあああああ!?」

 部屋を覗き、悲鳴をあげたのは確か、ジェイダとかいう名前の女だった。しかし私はそれどころではなく、必死に己の指をさすった。

 マリアンナは既に私から離れ、エリザベスを揺らしている。

「なっ、な...何なのですか貴方は!どなたですか!フィリッパさんはどこですか!?何故見知らぬ男性を部屋に...!?ま、マリアンナ様!どういうことなのです!?」

「ちょっと待って!ベティちゃんが先だから!ベティちゃん!朝ですよ!!」

「う、うーん...マリアンナ...?」

「ベティちゃーん!!」

「ど、どういうことなのですか...!」

 私は、阿鼻叫喚の光景を見て、思った。

 どうしよう。

マリアンナの(火事場の)ばかぢから!

フィリップ(悪)に こうかは ばつぐんだ!


もう少しで最終回。

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