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「初めまして、ケイン」
そいつは、私をケインと呼んだ。
「まあ厳密には初めましてじゃないんだけどね、だって私ずっといたし」
「意味が分からないんだけど」
前世の私の姿をこうして見ると、何だか妙だった。そういや私ってこんなんだったね。
「んー、私もこうなるとは思ってなかったよ。分かりやすく言うと私は、あんたの前の私だよ」
「はあ...つまりどういうこと」
「分かんないかな?あれだよ、ケインに転生するまでの私が私」
「分かんないなあ」
「んー、だよね。取りあえず私は前世の私って覚えてて」
前世の私...じゃあ智秋って呼ぶか。相手も私をケインって呼ぶし。
「で、智秋。あんたは何でここにいんの?」
「さあ?ケインが寝てるからじゃない?隠しキャラに魔法かけられたんでしょ?」
「ああ、寝てるのか...成程、これ夢だったんだ」
「そうだね、私自身何でこうしてあんたと話してんのかよく分かってないし。夢だよ」
なら安心だ。だって夢は目が覚めれば終わるし、私早く起きないかな。
「あー、ケイン、折角夢なら言いたいこと言っていい?」
「何?智秋」
「あんたの家族は誰?前世の?それとも今?」
「どっちもでしょ」
「マジ?そっか、私なら今の家族は家族って思えないわ」
「いやそれ小さい頃思ってたよ。転生なんてそうそう受け入れられなかったし」
「やっぱそうだよねー。あーあ、睦月も薫も元気かなー」
睦月は前世の私の弟、薫は妹の名前だ。
正直名前を出さないでほしい。ちょっと泣きそうになる。
「...ねえ、ケイン」
「何、智秋」
「...前世に戻りたいって思う?」
「......」
即答は、出来ない。
私は、前世への未練が完全にない訳じゃない。小さい頃は、よく、前世で生きてた頃の夢を見たし、今でもまだ、時々見ることがあるから。今はもう前世の家族のことを思い出さない、という訳でもないし。
それでも小さい頃よりは、憂鬱になる回数は減ったと思う。
小さい頃は、前世への未練が顕著に表れていた。年上だけれど小さかった頃の前世の弟に似ているコーディを、その名前で呼びそうになったことも、少なくない。
けれど今も私は、いまだに、密かに引きずっているのだ。
だから、智秋にはすぐに答えられない。
実は、この質問をマリュンにしたことがある。あの時マリュンは、「オリヴィア姉さんとベティちゃんから離れるなんて俺やだぞ」って、言ってた。
「...分からない」
「...そっか」
ぽつりと智秋は相槌を打つ。そして背を向けた。
「それじゃあね」
智秋は振り返ることなく、教室を出てドアを閉めた。
私は、黙ってそれを見ていた。
夢は、続く。
智秋が出ていって、しばらくして視界が歪んだと思ったら、私はマリュンの家の庭にいた。
「ケイチー」
私の前には、マリュン。
「何やってんだよお前マジでさ、死ぬの?お前死ぬの?」
「何の話よ...」
「お前もう四日も寝てんだぜ?そろそろ起きろや」
「四日!?何それ!」
「マークもお手上げだし、ローレンは仕事で他の国にいるしよぉ。フィリップは魔法?何それ状態でしらばっくれるし、何故か他の魔法使いは来てくれねえし、お前に一体何をすりゃいいのか全然分かんねえし、お前マジ死ぬんじゃねえ?」
「いやフィリップ脅してでも助けてよ、流石に死にたくないよ」
「はあー、まあ安らかに逝ってくれ」
「ふざけんな!」
「...フィリップがさ、言ったんだよ。ケイチーが死んで、俺と二人っきりになった時にさ」
「ちょっと、私まだ死んでないよ」
「これで私とお前とで幸せになれるねって、めっちゃキモいんだよ、あいつマジ何なんだよ。フィリップの野郎、俺が自分のことを好きだって思い込んでんだよ。助けてくれケイチー、俺このままだと確実にやばい。お願い助けてえっ」
「助けてほしいのは私の方なんだけど」
「ほんっと、マジお前いい加減起きろよ。お前の黒歴史周りの奴らに晒してくぞ?」
「止めろ馬鹿!」
「...起きろや、馬鹿」
そう言い残して、マリュンの姿が掻き消えた。
マリュンの言ったことが本当なら、フィリップはマリュンのことが好きで、婚約者の私を排除しようとしたってこと?何それ、フィリップ行動力すごいな。でも困った。
私だってこのまま寝たきりで死にたくない。マリュンも助けたい。
でも、どうやったら起きられるの?




