古い友人への手紙②
読んでいただいてありがとうございます。
艶子から手紙を受け取り、職場に帰ると大柄の男性がソファーにだらしなく寝そべっていた。
「おーう、依織、おひさー」
「おひさー、じゃないわよ、ようやく戻ってきたのね、義彰」
「んー、遠かったからなぁ」
義彰が手紙の配達に出たのは、半年ほど前のことだ。
電車を乗り継いで行く遠出の配達に出たので、ついでにその周辺への配達物も請け負ってのんびりと出かけて行った。
義彰は依織と違ってあやかしなので、時間感覚がのんびりしている。
確か、行き先も順調にいけば一ヶ月ほどで着く場所だったはずなのだが、その途中で他の配達もしつつ、向かったらしい。
出した方も受け取った方もあやかしなので、半年は早い方だ。
「今度は私が出かけるから、義彰がちゃんとここにいてね」
「お、どこに行くんだ?」
「波綾」
「海かー。海はいいぞー。広いし、こことは雰囲気が全く違うし。あの磯臭さはたまらん」
「行ったことある?」
「そりゃもちろん。依織が生まれるずっと前から手紙を運んでるんだぞ。人魚のところにも行ったことがある」
「へー」
「それに何と言っても、海産物が美味い!」
義彰は波綾で食べた海産物を思い出したのか、ちょっと嬉しそうな顔をしていた。
「海老や蟹、新鮮な魚、いいなー、食べたいなー、俺も行こうかなー」
「もう、久しぶりに帰って来たんだから、もうちょっとは大人しくしてた方がいいよ」
「仕方ない、俺にぞっこんのお嬢ちゃんたちのところにでも行くか」
「はいはい」
確かに、あそこのお嬢さんたちは義彰にぞっこんだ。
「ってゆーか、もう皆、義彰のこと、忘れてるんじゃない?」
「えー?そうかなぁ?」
「子供は新しいおもちゃがあればそっちに夢中になるから」
「俺、おもちゃ以下?」
「子供目線だとそうかも。だって、考えて見てよ、たまーに来て遊んでくれるおじちゃんと毎日遊べるおもちゃだよ?」
「レア物として扱ってくれないなかー」
義彰の言うぞっこんのお嬢ちゃんたちは、知り合いが運営している保育園に通う子供たちのことだ。
義彰は気まぐれに顔を出しては、子供たちと遊んでいる。
「あははははは、子供たちはどうかなー?」
適当に義彰をあしらうと、文香のいる部屋へと入った。
「お帰りなさい、依織」
「ただいま戻りました、文香さん。艶子さんからの依頼は、この手紙を波綾に住む人魚の友人に送ることでした」
「あら、そう。じゃあ、依織がそのまま持って行ってね。でも、出発は明後日にしてほしいの」
「明後日ですか?」
なんなら、今日の夜に出発してもいいと依織は思っていた。
寝台列車に乗ったことがないので、この機会に乗ってみようかと思っていたのだ。
「そう。明日、新しい子が入るのよ」
「新人さんですか?私の後輩?」
「ふふ、そうね。せっかくだから、研修も兼ねて依織と一緒に行ってもらおうと思ってるの」
「あ、いつもの研修ですか」
遠出の配達の研修は、依織もやったことがある。
その時は、文香と一緒に行った。
まだまだ子供だった依織に、文香は仕事を丁寧に教えてくれた。
「依織も先輩になるんだから、ね?」
「はい、分かりました。先輩としてがんばります」
「お願いね」
とはいえ、依織はあくまでも人間だ。
その新人があやかしだった場合、年齢的には上になるかもしれない。
そこのところは注意して、でも、先輩らしく振る舞えるかな……?
少々不安はあったが、それでも新しい人が来るというのは、何だかわくわくする。
そんなことを考えていたら、窓の外が騒がしくなった。
「何かしら?」
文香が窓を開けて外を見ると、街のモノたちが空を見上げて何か話している。
窓から身を乗り出した依織も、空を見上げた。
美しい青い空と白い雲。
そして、その空を黒い龍が悠々と飛んでいた。




