episode7-2「 」
「さて、じゃあ沙織の件も上手くいったところで、新たな依頼だ」
(また依頼? よくまあ次から次へと来るもんだ……)
僕は真剣な表情でそう語るミカを見ながら思った。
適当だが行動力はある。妙な魅力を持った桐生ミカに、この手の依頼が舞い込んでくるのも考えてみればさほど不思議ではない。ただ文芸部を名乗っているのに、ここで一度も本を読んだことがないのは滑稽だ。
「チア部からの依頼だ」
ミカは右手をテーブルに乗せ力強く言う。なぜかいつも以上に気合が入っている。真奈が尋ねる。
「どんな依頼なの? ミカりん」
「うむ、よく聞いてくれた。マナマナ」
後で考えてみればこの時、真奈を見つめる優しげな目の意味に気付けば良かった。ミカが言う。
「今週の日曜、我が校のサッカー部の大切な試合がある。負けられない試合だ。うちのチア部も全力でそれを応援しに行く」
黙って聞く一同。部長のララだけがピンクのツインテールをクルクル指に巻いて遊んでいる。
「だが!!」
ミカがテーブルをバンと叩いて言う。
「不運なことにチア部のひとりが骨折して応援に行けなくなってしまったのだ!!」
僕は徐々に嫌な予感がしてきた。
「そこでチア部の友人から私に依頼があったのだ。助けて欲しいと」
僕が弱々しい声で尋ねる。
「あ、あの、それってまさか……」
「うむ。その通りだ。怪我をしたチア部のメンバーの代わりに、マナマナ。お前に応援に行って貰う!!」
真奈が両手で口を押えて言う。
「ちょ、ちょっとミカりん!? そんなの無理だよ!! 私、できないよ!!」
「大丈夫だ。今週はずっとチア部に行って練習すると約束している」
「わ、私じゃなくても他の人でもいいでしょ!」
ミカが首を振ってそれに答える。
「ダメなんだ。条件が『可愛い女の子』でな、お前しか適任者がおらん」
「だ、だってぇ、ミカりんだって可愛いし、それにララさんだってそう。いつも踊ってるわよ!!」
ララがややむっとした顔で答える。
「真奈ちゃ〜ん、私のこの衣装をあんなチア部のようなチャラい服装と一緒にされちゃあ、困るわよね~」
何が違うんだ。僕はララの着ているミニスカのアイドル衣装を見て内心思った。真奈が言う。
「な、なら、沙織さんだって……」
「私は文芸部よ。そんなのごめんだわ」
ここに居るのは皆文芸部。でもまあそうなるよなと僕は思った。ミカが言う。
「往生際が悪いぞ、マナマナ。もう決定事項だ。早速今日からチア部の練習に参加してくれ」
「そ、そんなぁ。私、恥ずかしいよぉ……」
その時僕は気付いた。これはもしかしてあの『霞ヶ原真奈』のチア姿が見られる千載一遇のチャンスなのではと。美しき黒髪。出るところはしっかりと出たえっちな体。白く長い脚。そのすべてが堪能できるチア姿。想像するだけで興奮する。
ただ、そんな僕にも一つだけどうしても聞いておかなければならない質問があった。
「あの、ミカさん。ちょっと質問ですが……」
「ん? なんだ総士郎。言ってみろ」
腕組みをしてそう言うミカに僕が尋ねる。
「これって誰の恋愛相談なんですか?」
そう、ここは別名『恋愛よろず相談部』。人様の色恋の相談を受ける文芸部とは別の顔を持つ場所。今回の依頼も恋愛絡みのはず。皆の視線がミカに集まる。ただ意外なことに、あの強気の彼女がやや口籠りながら答えた。
「いや、これは、その……、恋愛っていう訳じゃないんだが。まあ、人助けと言うかボランティアと言うか……」
明らかにおかしい。歯切れが悪すぎる。あのミカがボランティアなどと言う言葉を口にすること自体変だ。真奈が問い詰める。
「ミカりん! これって誰かの恋愛相談じゃないの??」
「いや~、なんて言うか、チア部のそいつにちょっと借りがあってだな……」
「借り……」
そう言うこと。もう恋愛相談とか関係なく、何でも屋になっている。ミカが真奈の肩に腕を回し笑いながら言う。
「まあ、あまり細かいこと気にするな! チア部に行けば行ったで、新たな恋愛相談でもできるかもしれないしな!」
(そんなのに霞ヶ原を巻き込むな!)
そう思った僕だが、ミカが鞄から取り出したそのアイテムを見て考えが一変する。
「さ、これがチアの衣装。可愛いだろ?」
(マ、マジか!!!!)
それは彼女の生腕が露わになる紺色のベストに、超短めのスカート。黄色の線がアクセントととなり鮮やかな印象を与える。ミカが言う。
「着て見れば分かるがピッタリなはずだ。私はお前のサイズをすべて把握しているからな」
(どこかのオヤジかよ!!)
僕が内心突っ込む。今日のミカは幼馴染のお姉さんと言うより、セクハラ大好きオヤジにしか見えない。更に彼女は小さな布切れを取り出し真奈に言う。
「そしてこれが『見せパンツ』。見られてもいいパンツだ」
「ちょ、ちょっと、ミカりん! 止めてよ!!」
慌てて真奈がミカの手からそのインナーパンツを奪う。女性の本能なのだろうか。真奈は真っ赤な顔で僕の顔を見ながら手にしたパンツを後ろに隠す。
(か、霞ヶ原のチア姿……)
単純な僕の頭の中は、すでにチア衣装を着てパンツを見せる真奈の姿で埋め尽くされていた。ミカが尋ねる。
「以上で説明は終わりだ。何か質問がある奴はいるか?」
無関心な沙織。同じく興味がないララ。そして真奈のチア姿に頭が真っ白になる僕。反応がない皆を見てミカが言う。
「じゃあ、決定。マナマナ、頑張ってな!」
「もぉ、本当にやるの……? 恥ずかしいよぉ……」
インナーパンツを持ったまま顔を赤くして俯く真奈。不謹慎かもしれないが、僕はそんな彼女を見て心から可愛いと思ってしまった。
『こんばんは。今何してる?』
その日の夜、ベッドの上でスマホをいじっていた僕に真奈からメッセージが届く。急に高鳴る心臓。僕はゆっくり返事を返す。
『何もしてないよ。ゴロゴロしていた』
『そう。ねえ、どうして今日来てくれなかったの?』
そのメッセージと一緒に犬がやや拗ねたようなステッカーが送られてくる。あの後、真奈はミカと一緒にチア部へと向かった。今日は見学だけと言っていたがもう真奈が参加する路線は避けられないようだ。
『どうしてって、理由は別に……』
行けるはずがない。明るいチア部=陽キャ集団。しかも女子ばかり。そんな悪魔の巣窟のような場所に、真正陰キャがのこのこ顔を出していいはずがない。恐らく一瞬で溶ける。その自信はある。
『ミカりん、途中で帰っちゃうし、誰も知り合い居なくて寂しかったんだよ』
きっとミカは途中で飽きたんだろう。真奈に振るだけ振っておいて自分は帰る。容易に想像がつく。
『明日の練習は見に来てよ。ね、お願い!』
そう言って今度はウサギがお願いするステッカーが送られてくる。僕がチア部の見学!? 想像もできない構図に固まっていると、真奈が破壊力抜群のメッセージを送り付けて来た。
『私のチア姿、見てみる?』
(え?)
僕はスマホを持つ手が震えた。そしてポンと言う音と共に真奈から写真が送られてくる。
(うおおおおおおお!!!!!)
それは上半身だけ自撮りした真奈の写真。もちろんチア姿。露出は少ないが柔らかそうな生腕に、色っぽく後ろで結われたポニーテール。恥じらいを感じさせるその写真に僕は無意識では返事を打った。
『行く』
いや、行きます。行かせて頂きます。陰キャだろうが所詮男。この誘いを断れるほど立派な理性は持ち合わせていない。
『ありがと! そー君が応援してくれるなら、私頑張れるかも!!』
体が、いや心が宙に浮いている感覚がした。離れている真奈。だけど不思議とすぐ近くいるような感じがして僕は何だか嬉しくなった。




