episode4-5「 」
「おお、来たね、王子様! いらっしゃ~い!!」
不安しかない僕を半ば無理やり部室に連れて行ったミカ。その部室で僕を揶揄い、大袈裟に歓迎する部長のララ。僕は開口一番謝罪を口にした。
「ごめんなさい!」
深く頭を下げ昨日の件を詫びる。上手くいったかもしれない。だがそれは結果論。僕が勝手なことをして皆に迷惑をかけたことに違いはない。ララが言う。
「いいのよ~、これが青春。これが若さ。さ、それより今日は新たなお客さんが来てるわ」
そう口にするララの目線の先には、告白の練習がしたいと言う一年の女の子が居心地悪そうに座っている。当然だろう。この独特な雰囲気。ノリ。毎日来ている僕だってまだ慣れない。
「一年の香川です。今日はよろしくお願いします……」
こんなに頻繁に恋愛相談が来るとは、結構この裏の活動である『恋愛よろず相談部』って言うのも皆に浸透しているのかなと僕は思った。
プスーッ
ミカが冷蔵庫の中からノンアルを取り出しそれを開けながら言う。
「まあそういう訳だ。総士郎、そこに立って告白を受けてくれ」
「ほ、本当にやるんですか?」
正直そんな気になれない。ミカが答える。
「いいんだよ、王子様はそこに立っているだけで」
「それはダメだよ~、ちゃんと答えてあげてね!」
部長のララが口添えする。きちんと考えて対応しなければならないようだ。目の前に立った香川が、指で髪を耳にかけながら緊張した面持ちで言う。
「あ、あの、ずっと好きでした。付き合ってください!!」
「あ、うん……」
「カーーーーーット!!!」
ノンアル片手にミカが大きな声を出す。
「何だその腑抜けな言葉は!? ちゃんとやれ、総士郎」
「や、やってますよ……」
何をどうすればいいのか!? 僕はちゃんと答えたつもりなのだが気に召さないらしい。香川が続ける。
「好きでした。私と付き合ってください」
「……ごめん。僕には好きな人がいて」
「カーーーーーット!!」
再びミカが立ち上がり大声で言う。
「断ってどうする!! ちゃんとやれ!!」
もう何を言っているのかさっぱり分からない。僕は助け舟を求めるように真奈の方を見る。
(げっ……)
そこには不貞腐れた顔でミカ同様ノンアルを呷る真奈の姿があった。
(どうしたんだ!? どうしたんだ!? 何でまた不機嫌そうになっている!?)
「好きです!!」
「大好きです!!」
「愛しています!!!」
「付き合ってください!!」
結局、三流映画監督の下、大根役者による幼稚な演劇会は下校のチャイムが鳴るまで続けられた。
「疲れた……」
部活終了後、中庭を歩く僕の隣にはずっと不機嫌な真奈がいる。ノンアルのはずなのに、なぜが彼女の顔は酔ったかのように赤い。
「ど、どうかした……?」
僕は勇気を振り絞って真奈に尋ねた。何を怒っているのか分からない。原因が分かれば対処もできる。真奈がやや口調を乱した声で答える。
「知らないー」
「知らないって……」
ああ、これでは対処も何もできない。再び謝罪か? そう思った僕の耳にこれまでとは違う弱々しい声が響く。
「……ぉもしろくない」
「え? 何か言った??」
はっきり聞こえなかった僕は、真奈の顔を見て尋ねる。
「面白くないって言ったの!!」
「な、何が??」
分からない僕。正直にその言葉の意味を尋ねる。真奈が何度も髪を握ったり放したりしながら答える。
「神崎君だけあんなに告白されて、面白くないの!!」
酔っているのか!? あれは演技。何の感情もないただの言葉の練習。
「告白って、あれはただの代役で……」
「ヤなの!! 私も告白されたいの!!」
何を言っているんだ!? 本当にノンアルで酔っているのか? そう思うと確かに彼女の足取りはおぼつかない。あれは本当にノンアルだったのか? そう黙り込む僕に真奈が言う。
「ねえ、私にも……、言ってよ……」
(!!)
艶のある長い黒髪をかき上げ真奈が色っぽく迫る。夕暮れの学校。橙色の夕焼けが彼女の顔をより赤く染め上げる。僕はまるで彼女の言葉の意味が分からず、馬鹿丸出しで尋ねる。
「な、何を……??」
真奈がちょっとムッとした表情になり言う。
「神崎君、奥村さんに聞いていたでしょ?」
(奥村? ……あっ、それか!!)
真也に頼まれて一緒にアドレスを聞きに行った件。追いつめられた彼の代わりに僕が彼女にアドレスを聞いた。真奈が首を揺らしながら尋ねる。
「私には、聞かないの……?」
(い、いいのかぁああああ!!!!!)
こんな陰キャが、クラスでも上位の美少女のアドレスを聞く。普通なら犯罪。即実刑ものの重罪。
「ねえ……」
酒に酔っている。酒に酔っているんだけど、彼女の目に偽りはない。僕は息を整え真奈に言う。
「あ、あのさ……、アドレスを……」
(いいのか!? でも、でも僕は……)
episode4【僕は、君と繋がりたい】
「僕にアドレスを、教えて欲しい」
真奈は一度優しく目を閉じ、そして僕をしっかりと見つめ答えた。
「いいよ」
高校に入って初めてアドレスを交換した相手。それがまさかクラスのリアルの女子になるとは。今日僕は少しだけ、ぼっちから卒業することになった。




