第五十六話 夫婦の時間
私は先輩と、ひとつになろうと思った。
いえね、このままだと夫婦関係を一度も結ばないまま、年を取りそうなので。
すみません、いつまでも処女が嫌なだけですし、女性として負けたくないんです!
「先輩、私を女にしてください!」
「急に何で?」
「プロポーズされたんだから、次はセックスしないと!」
「あの~、何を言っているのか分からないけど」
「だって、男性経験が無いまま母親になるなんて、罰があたるでしょう?」
養子を取ることは、すでに話し合いで決まっているので、次は役所に行って相談するだけ。もう、そういう段階なのだ。
それなのに、私にはまだ男性経験が無い。手前までならあるけど、いい経験では無かったし。
これって、おかしくないか?
「そうなの?」
「そうなんです!処女で子供を持っていいのは、マリア様だけです」
「そうなんだ」
多分ですけど。すみません、良く知りませんけど。
だって、先輩はあの母とはセックスしたのに、私とセックスしていないのは、オンナとして許せないでしょう。
それって、私は母よりも下ってことじゃないですか?
先輩がリセットして、童貞に戻るっていうのなら、まあ私は一生処女でもいいですけどね。
いえ、嘘です。
したいです。
してみたいんです。
「ええっと、出来なかったらゴメン」
分かってます。その上で、お願いしてるんですから。私はそんなに、理不尽ではないですよ?母とは、違って。でも、出来なかったら出来なかったで、ちょっと、ショックかも。
そう、先輩は勃たないらしい。ただそれは、気持ちの問題だって、以前お医者さまから言われたっていうから、それは夫婦で乗り越えないと。
それに裸で抱き合うのは、それはそれで気持ちがいいモノだしね。
お風呂で先輩の背中に抱き着いた時、あんなに気持ち良かったんだから。それを真正面からやったら、それはもう想像を超えるでしょう?
「私、先輩が勃つように協力します!裸エプロンでいいですか?」
「すまんけど、一度だって私が咲良さんに、そんな要求をした覚えはないけど?」
「目が、求めてます!」
「とにかく、落ち着こう」
やだ、興奮してた?
というか、先輩はなんでそんなに冷静なんですか?ぶちますよ?
時間はたっぷりあるけど、出来るなら私はセックスしたいんです。
せっかく、女に生まれたのに、使わないと損だと思う。
これって、変かな?
だって、仕方ないじゃない。
そもそも私には、男性経験が無かったから。だいたいが相手に対して殺意を向けるとか、腕にモノを言わせて屈服させるとか、まあ色っぽい話は一切無かったから。
よく考えると、灰色の青春時代だったなあ。ホント、碌な男しか居なかった。
とは言え、今までの経験を先輩に向けるのは、やはり変だし。
困った。誰かに相談したい。同僚に相談してみようか?いや、それは弱みになる。私の社内における、ヒエラルキーに影響が出る。それが男が相手なら、いざとなれば腕力にモノを言わせることが出来るけど、女性が相手だとそうはいかない。はあ~、人間関係って、面倒だなあ。
とりあえず、実践あるのみ!
オンナは度胸だ!
私は女性誌のいわゆるセックス特集を読んで、性行為の何たるかを勉強することにしたけど、私には難易度が高かった。
「さ、咲良さん?」
「はい」
「随分と、スタミナ抜群の料理だね?」
ニラにニンニク、ホルモンとまあ、色々と所謂、精の付く食材を用意した次第です。ああ、明日は奮発して、ウナギにしますね。ちなみに昨日は、カキフライでした。何か?
ちなみに、朝食にはとろろを用意した次第です。
「お嫌いですか?」
「いや、別に。ただ、口が臭くなるよ?」
しまった。ニンニク臭い新妻って、正直どうよ?
ニンニク臭いオンナに、キスしてっておねだりされるのって、きっと拷問でももっとマシでしょう。
私なら、近寄るなになるかも。
いや、先輩ならそんな心配は無いか。
先輩には、我慢してもらえればいい。そもそも先輩は、キスの時はいつも息を止めてるから、ずっと息を止めていれば問題無し。でも、ないか。
「まあ、とにかく精を付けてください」
「うん」
さすがに、今夜はそんな気分にならなかった。
寝室に設置した空気清浄器が、フル稼働したぐらいだから。
一晩中、うるさかったぐらいに。
もう、にんにくたっぷり料理は、控えようと思う。
とにかく、リラックスしてもらおうと思い、私は先輩の背中をマッサージしてあげた。
すると、何故か先輩は眠ってしまった。
おい?寝るなよ?
私も先輩の背中に覆いかぶさるように、眠ってしまったけど。
翌朝、先輩は苦しそうにしていたけど、私は悪くないですよ。
私を置いて、勝手に休む先輩が、悪いんですから。
ホント、失礼しちゃうわよ。
「何だろう、空振りが続いているようで、落ち込むなあ」
私がため息を吐くと、先輩はとにかくそのうち出来るから、今は焦らないで行こうと言ってくれた。
いや、そもそも先輩のせいなんですけど?
先輩は、暢気でいいなあ。
朝だった。
先輩の股間が、膨らんでいた。
これがもしかして、噂に聞く朝勃ちですか?やだやだ。というか、どんな夢を見たのか?いや、今はそんなことを、言っている場合ではない。
今しかない、今やる!
「先輩!先輩!先輩!」
先輩は、中々目覚めない。いっそ、このままするかとも思ったけど、パジャマを脱がすことが出来ない。
そうかなるほど、スカートならいいのか。次に寝るときは、先輩にはスカートを履いてもらおうかな。しまむらであるかな?先輩のサイズに合うスカート。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
スカートは、明日の話。今やるべきは、ただひとつ。
「起きろ!」
私は先輩の顔を、平手打ちをした。だって、夫婦の危機ですよ。それなのに、いつまでも暢気に寝ていて。失礼しちゃうわ。人の気も知らないで。
「な、なに?」
「セックスしましょう」
「え?ええ?」
「大人しく、協力してください。ほら、腰を上げて」
私が先輩のズボンに手を掛けると、先輩も協力してくれたけど、今なにをしているのか理解しているのかな?
先輩に私の上に載ってもらい、さあ夫婦の時間ですよとなる、はずだった。
しかし、そこで問題が起きた。
「あ、あれ?」
「先輩、もう少しです」
「は、入らない?」
「い、痛いです」
「ああ、ゴメン」
「いいんです。というか、先輩何してますか?」
「それが、入らないんだ」
「え?」
すると、せっかく勃った先輩は萎んでしまった。というか、あれって萎むんだ。精子を出さなくても萎むなんて、私は初めて知った。
「少し、触るよ?」
「え、あ、は、はい」
先輩は、私の女性自身に触れてきた。
最初は怖かったけど、先輩は優しく触れてくれた。
「う~ん、ちょっと難しいかも」
「え?」
どうも、私のいわゆる女性器は、しっかりと閉じていたようだ。先輩が入れようとしても、そもそも受け付けないようなのだ。私も自分の指を入れようと試したけど、本当に入らなかった。というか、どうなっている?どういうこと?
もしかして、私があの男に犯されなかったのは、これが理由だったのか?
先輩はすでにくたくたのようだけど、私も正直疲れた。
「とにかく、今夜は休もう」
「はい」
どうしよう?
先輩と出来ない理由が、もうひとつ増えてしまった。
しかも、今度は私が原因だ。
どうすればいい?
誰か、教えて。




