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私の先輩  作者: せいじ
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第四十六話 華やかな舞台

 うめき声が聞こえた。


 誰?

 先輩?


 私は慌てて、飛び起きた。

「先輩!先輩!先輩!起きてください先輩!」

「あ?ああ、もう朝か?」

 起きてくれて良かったけど、先輩の顔色が悪かった。

「先輩、うなされていましたけど?」

「そう?」

「汗びっしょりです。大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。たまにあるんだよ」

「夢でも見たんですか?」

「さあね、覚えていないよ」

 良かった、大丈夫そうだ。

 誰だ、夢の中で先輩を苦しめる奴は?

 思い当たる奴は、一人しかいない。

「とにかく、着替えてください。ああ、シャワーでも浴びておいてください。朝食の支度をしますので」

「ああ、すまないね」

「いえ」

 先輩は何を恐れていたのか、何を怯えていたのか?

 それが誰であろうと、先輩を脅かす奴は、すべて私の敵だと思う。


 

 私は先輩の着替えを用意し、脱衣所に置いた。

「先輩、着替えを置いておきますね」

「ああ、ありがとう」

 やっぱり、どこか元気が無い。

 

 私たちは朝食を摂り、一緒に出勤することにした。いつもだけど。


 先輩から話してくれることは無さそうなので、私から聞くことにした。

 夫婦なんだから、家族になったんだから、悩みがあるなら分かち合いたいと思うから。

 敵がいるなら、私に言って下さい。先制攻撃あるのみです。


「先輩、悩みごとがあるんでしたら、私に必ず相談してください」

「何もないよ」

「夫婦なんですから、隠し事は無しでお願いします」

「本当に、何もないよ。まあ、トラウマになっていることはあるけど、咲良さんには関係ないよ」

「・・・・・・」 

 私は先輩の顔を、ジッと見つめた。

「何か、あった?」

「私には、何もありません。先輩が、心配なだけです」

「そうなんだ。心配を掛けて、悪かったね」

「そう思うのなら、何でも話してください」

「う~ん、分かったよ。でも、帰ってからでいいかな?」

「分かりました」

 いつか、話してください。


 その時はきっと、笑い話になっているでしょうから。



 披露宴は、一つ星レストランを貸し切って行われた。

「知らん顔が多いなあ」

「知り合いの知り合いを、かき集めたそうですよ」

「へえ~、そうなんだ。人数集めかな?気が利くね」

「違います。出会いの為です」

「なんで?」

「結婚式は、女子にとって格好の出会いの場所なんですよ。だから女子は、ここぞとばかりに着飾ってますし」

「そういえば、みんなすごいお洒落だね」

 お洒落と言うより、派手という方が正確なのでは?

 思いっきり背中が開いたドレス姿の淑女に、スリットが思いっきり入ったロングドレス姿の淑女とか、果ては超ミニのドレス姿の淑女も居た。

 

 何、ここ?

 もしかして、皆さん発情期ですか?


 そう言えば、先輩って、派手な女がお好みのようで。

 すっかり、見惚れているようですね?

 良かったですね、華やかで。

「先輩?」

「見惚れて無いって」

「どうだか」

「君が一番だよ」

 やめてください。胸の奥から、何かが湧き上がるから。ここでは、さすがにまずいので。

 そういうのは、ふたりっきりの時にお願いしますね。


 今度こそ、押し倒しますから。


 そう考えていたら、先輩女子社員から声を掛けられた。お色直しの時間らしい。

「坂上ちゃん!そろそろ」

「あ、はい。先輩、私、着替えてきますので」

「ごゆっくり」

 妻の居ないその間に、浮気なんかしないでくださいね。

 女って、既婚者に弱いんですから。

 もし私がそう言ったら、先輩は引きますか?


 私って、どんどん嫌なオンナになっていく。

 みんな、先輩のせいですよ。

 責任取ってください。



 私は、ウェディングドレスに着替えた。

 メイクも手直しされ、髪型も直し、ちょっとしたお姫様気分になった。

 鏡に映る自分は、もう同じ自分ではなかった。

 

 まさに、花嫁さんだった。


 会場は暗くなり、私はスタッフに誘導されてひな壇に出た。

 やがて私に向けて、スポットライトが浴びせられた。

 正直、ドキドキしてきた。

 こんな体験、初めてだから。


 結婚式なら、何度でももしてみたいって先輩女子社員は言っていたけど、こういうことだったのか。


 私、ヒロインになったみたい。


 先輩はヒロインになった私に近づき、目をきょろきょろさせながらも感想を述べてくれた。

「ええっと、キレイです」

 まあ、先輩ならそんなもんでしょう。むしろ、奇をてらわない所が、先輩らしい。

「ありがとうございます」

 先輩は私の手を取り、エスコートしてくれた。

 期待していなかっただけに、私は嬉しくなった。

 スキップしたい!

 抱き着きたい!!

 大好きです!!!

「あの、先輩も素敵ですよ」

「ありがとう」


「指輪の交換です!」

 司会役を買って出てくれた女子社員が、アナウンスしてくれた。

「では、指輪の交換を」

「どうやるの?」

「ちょっと、待っててください」

 私は左手を胸のあたりまで上げ、右手で左手の真っ白な手袋をゆっくりと外した。その後、右手にはめてある手袋を、左手でゆっくりと外した。

 そしてその手袋を、介添え役の女性に手渡した。

 リハーサル通りだと思うけど、間違ってないよね?

 肝腎の先輩は、ボ~としていた。


「先輩、こっちですよ」

 囁くようにして、先輩に指輪をはめる指を教えた。

 先輩は手を震わせながら、ゆっくりと指輪をはめてくれた。

 すると、先輩は一仕事終えたという感じだったので、まだ終わってませんよと注意した。

「え?まだ何かあるの?」

「私が先輩の指に、リングをはめます」

「ああ、そうだったか」

 先輩は私に指をぐいっとさしだすけど、もうちょっと優雅にやってくれないかなあと思った。

 ま、先輩らしいけど。緊張してるのかな?

「先輩、もっと力を抜いてください」

 ホント、先輩って、面倒。


 無事、指輪の交換も終わり、姿勢を司会者の方に向けた。

 遅れて先輩も、同じ方向を向いたけど、何だか先輩、帰りたがっているみたい。

「おめでとうございます。では、誓いの口づけを」

 先輩は動揺していたけど、これって定番ですよね?

「先輩?」

 仕方が無いので、私は先輩に向かって顔を上げ、キス待ちの姿勢をすることにした。

 すると、はやし立てる声が響いた。


 キッス!


 キッス!


 キッス!


 はあ~、ホント面倒な人たち。先輩がびっくりするじゃないですか?


 やはり先輩は、固まってしまったようだ。


 やれやれ。

 私は先輩の顔をガシッと掴み、先輩の顔を思いっきり引き寄せ、強引に口づけを交わした。

 いつまでもぐずぐずしていたら、私の方が恥ずかしいから。

 でも、先輩はまた、息を止めていた。

 まったく。いつまで我慢できるか、試したくなったじゃないですか。

「さ、咲良さん?」

 まだ耐えられる。う~ん、結構楽しいかも。

「さ、咲良さん、もう、息が、息が」

 先輩が私の手をポンポンと叩いてきたので、ここでやめることにした。窒息したら、さすがにまずいしね。

 私の方が、肺活量は上なのかな?

 先輩、もっと鍛えましょうよ。

「し、死ぬかと思った」

「先輩、なんで息を止めてるんですか?気持ち悪いですよ」

「ええ?だって、マナーじゃなかったの?」

「先輩が息継ぎしないから、いつまで我慢できるか、試したくなったじゃないですか」

「や、止めてくれるかな、ホント」

「でも、これで名実ともに夫婦ですね」

 先輩、顔色悪いですよ?せっかくの門出なんですから、もっとシャンとしてください。

「先輩、これからも、末永くよろしくお願いしますね」


 こうして私と先輩は、誰もが認める夫婦となった。


 少なくとも、これで私にちょっかい掛けてくるブタ野郎は居なくなっただろうけど、逆に先輩の方が心配だ。


 既婚者ばかりを狙う、そんな厄介なオンナも居るからだ。


 

 私も警戒しないとね。



 先輩に、変な虫が付かないように。


 


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