伯爵令嬢は友情のお茶会を開く 裏話(2)円卓を運ぼう!
さて。嫌がるフェデルをなんとか説得して、温室は使わせてもらえることになった。――すごく脅されたけど。
許可取りに行ったら、黒犬の使い魔に虫けらでも見る目でジロリと睨まれ、凄まれた。
「――私は一切手伝わないからな。終わったら元通り戻せよ。戻ってなかったら……、わかってるんだろうな?」
怖いわっ!
む、虫けらじゃないよ? 猫だよ……?
「わ、わかってます……。ありがとう、フェデル……」
と、いうことでソレルはなんとか手伝ってくれるけど、万年使用人不足のこの屋敷で使える男手が足りない。
同じ形だというアーヴェルの温室は地植えの薔薇なんかが多いみたいなんだけど、幸いここの温室は鉢植え系が多くて、避ければまあまあの広さが取れそう。
一応、テーブルセットなんかは少し置いてあって、元々ちょっとしたお茶ができるようにはなってるんだけど、何人も招待してお茶会をするには当然足りない。
茶会室ではないから、テーブルとかの調度品なんかも足りなくて、どこかから運びこまなきゃならない。
ソレルとローラと使ってない部屋とかの調度品を探ったら、いい感じの白い円卓と椅子を見つけた。流石、元王族の持ち物だ。ざっと掃除すれば、高級品だってわかる美しさだった。
「でも、これをどうやって庭まで運ぶの?」
ローラが当然の問いをする。
そうなんだ。高級品だけあって、重さももちろん重量級なのだ。
非力な三人で運ぶのはしんどい。
ちょっと途方に暮れて、私も悩んでしまう。
「うぅん、そうだねぇ、どうしよう……」
「――呼んだか?」
「ヒッ!?」
悩んでいたら、急に誰もいなかったはずの背後から呼びかけられ、私とローラは飛び上がった。
「ギ、ギル!? び、びっくりした……!」
振り返ればギルウィスがそこにいた。
アウレア・ルプス王の使い魔、規格外の狼。きらきらと輝く姿は飄々としていて、いつだって突然現れる。
よ、呼んでないよ?
「呼んだであろう?」
「……いれば便利だなあ、とは思ったけど」
ギルに、運びたいんだけど方法が思いつかない、という話をしたら楽しそうな顔をした。
「これを温室に運べばいいのか?」
「うん。でも、できる?」
「誰に言っているのだ。――こうすればいいだろう?」
ギルの手がふっと弧を描く。
その指先からきらきらと金の粉のような軌跡が零れた。一閃すると、次にはふわりと金の魔法陣が浮かんでいる。
まるで音楽の指揮をするように、そのまま指をさらに軽く動かす。その指先の動きに合わせて魔法陣は動き、大きさが大きくなって、床のほんの少し上に魔法の絨毯みたいに平たく浮かんだ。
「――はい、どうぞ」
にこり、と笑ってギルがその魔法陣を指し示した。
私達三人は黙って頷いた。
――つまり、これは転移陣だ。
ここにテーブルを持って踏み込めば、温室に転移する、のだろう……たぶん。
まあ、重労働には変わりないんだけど。
まったく不可能な状況から、大変だけどなんとか可能、って状況までにはなった。
三人でぜえぜえ言いながら、運んだよ、どうにか……。
「な、なぜ、わたくし、が、こんな力仕事を……っ!?」
ご、ごめんね、ローラ!
アーヴェルの使用人でも、よっぽどの人じゃないとヴァシルが屋敷に入ってもいいって言わないんだもの!
ディリエ様かバルトルトでもいればな!
西の砦にいるだろうから、無理だけどね!
「連れて来るか?」
「やめて、ギル! いちいち反応しないで!」
ディリエ様にそんな迷惑かけられるはずないでしょ!?
「そうか、残念だな。あの執務室はなかなか気に入っているから、また行ければと思ったのだが」
うん、時々は遊びには行けばいいと思うよ? ただ、あんまり迷惑かけないであげて……。
そんなこんなで、調度品はなんとか用意できたのだった。
ギル、ありがとう!
もうちょい楽な方法あるともっと良かったけどね!




