伯爵令嬢は友情のお茶会を開く 裏話(1)ヴァシル様に交渉しよう!
アート視点の、「伯爵令嬢はお茶会を開く」の裏話です。
活動報告から加筆修正しての転載となります。
クロエとローラ、そして私、三人のお茶会が始まって、お茶やお菓子を楽しみながらいろいろとお話しする。
「――それで? どんな大変なことがあったのですか?」
クロエが興味深そうに問うので、私はそれこそ本当に大変だったいろいろを思い出してげっそりした。
……うん、本当にもうやりたくないな。
「そうだねぇ。とりあえず最初から話すね」
◆◆◆
「――茶会をこの屋敷で? なぜ?」
「クロエを馬鹿にされたから」
ヴァシルが面倒そうに溜め息を吐いた。
「わかるように話せ」
私は舞踏会でたくさんの令嬢がクロエに対して陰口を叩いているのを聞いた話をした。
ヴァシルは軽く困惑したような顔をする。
「それでなぜお前が茶会など開く必要がある?」
「――クロエが馬鹿にされるのは我慢ならないんだよ」
「あれはたいして気にしていないと思うがな?」
「それでも。陰でこそこそ言うのは卑怯だと思うんだよね。しかも、ちゃんと『陰で』言えてないんだもの! わざと聞こえるように言って、弱らせようとしてるんだよ!? そういうの、すごくカンジ悪い! 言いたいことがあったら堂々と言えばいいと思うの。言えないんだったら黙ってるべきだ」
ヴァシルがまた大きく溜め息を吐いた。
「――不満というのはため込ませないことも必要だと思うがな。ああやって適度に吐き出させているから大事にならんのだ。お前の幼稚な正義感が悪い状況に陥らせるきっかけになるかもしれんぞ?」
――分別くさいこと言っちゃって!
……でも、そうなのかもしれないな。
そうか。幼稚な正義感、か……。
ただ、ずっと胸の中がもやもやするんだ。
そのもやもやがどうしても消えないんだよ。
むー、っと私は眉を寄せた。頬を膨らませて目を逸らす。
ヴァシルが苦笑するように息を吐いた。
私の膨らんだ頬をヴァシルがキュッと掴んだ。プスッと空気が口から漏れた。頬を掴まれたため、ヴァシルを正面から見つめることになった。
その目が少しだけ面白そうな光を湛えている。
「――もう少し理論立てて私を説得してみせろ。大義がなくては人の揉め事に自ら首を突っ込むようなくだらないことは許せない」
「うー……っ! 手、はにゃひてひょ……!」
話せることも話せないでしょ!?
やっと手を離してくれて、私はズキズキ痛む頬を押さえた。
「……私はさ、公爵夫人になる予定でしょ? 社交界、とか率先して関わる気もないけど、辺境伯令嬢とは良い関係を築いておきたい。クロエがこの屋敷に出入りするには私と『親友』っていう立場が必要なんだよ。親友が侮辱されてるのに、黙ってるのが正しい公爵夫人なの? 公爵って、王族に次いで身分が高い人なんでしょ? 身分が高い人ってのはさ、それ相応の責任を負うんだよ。秩序を守らせないで、なにが階級なの? 笑っちゃうよね。他の偉い人が誰も諫めないんなら、私がやるよ? あの場にいた人たちをお茶会を名目に集めて、愚かな振る舞いに釘を刺す」
「足りぬな」
「ぐぬぅ……、ヴァシル様の嘘つき!」
「……なんだと?」
「前に約束したじゃん! クロエが望むことはできる限り叶えるって!」
「……別に望んでないのではないか? お前の自己満足だろう?」
「うっ……! そ、そうだけど、そうじゃないもん! え、えぇと、えぇと……! わ、私は親友に楽しく過ごしてて欲しいんだよ! クロエは私になにかあったら助けてくれるって言った。私だってなにかしたいんだもん! あいつら『ギャフン』て言わせてやりたいんだもん!」
目に涙が滲んだ。
なんで私、こんなに言葉が足りないんだろう。
こんなの、ヴァシルが言うように、ただの自己満足だ。
――でもさ。
「自己満足のなにが悪いの!? ヴァシル様の冷血! 正論魔王! 私はねえ、いじめが大嫌いなの! それのどこが悪いのさ!? ヴァシル様こそ理論立てて私をちゃんと納得させてよ、感情も含めてだよ!?」
ぽん、とヴァシルの手が頭に乗った。
その水色の瞳が私を覗き込むように見る。
「……いいのか、ぐうの音も出ないほど正論で言い負かしても?」
ニヤリ、と笑う様はまるで魔王だ。
「……うっ。すみません、言い負かさないで。立ち直れなそう……」
ふっと、魔王様は軽く吹き出すようにして綺麗に笑った。
くしゃくしゃと、私の頭を乱暴に撫でる。
「先ほどの罵り言葉は聞かなかったことにしてやろう。――まあ、及第点にはほど遠いが、前半部分は少しは大義と認めてやる」
ん?
思わず頭をワシャワシャ撫でてくるヴァシルの手を掴んだ。
「……え!? やっていいってこと!?」
「屋敷内には一歩も踏み込ませるな。庭までなら許す」
「あ、はい! 守ります!」
「せいぜい公爵の婚約者として恥ずかしくない振る舞いをするのだな」
「わあ! ヴァシル様、ありがとう!」
お礼にぎゅーっと掌を両手で握ってから、私は部屋を飛び出した。




