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犬の恩返し  作者: あいまり
白田仔犬編
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第13話 背中

 なんとか体を洗い終え、私達は現在湯船に浸かっている。

 美雪に体を洗ってもらうというのは中々興奮する経験だったが、それを素直に悦ぶことなんて出来なかった。

 なぜなら……。


「美雪、大丈夫?」

「あー……うん……大丈夫」


 かなり疲れた様子でそう答える美雪は、大丈夫とは思えないくらい疲れた様子だった。

 それもそうだ。自分だけでなく、私の体まで洗ったのだから。

 ついつい彼女の優しさに甘えてしまったが、少し無理をさせ過ぎてしまった。


「あ、明日は頑張って自分で洗うねっ」

「んー……」

「ほ、ホントだよ?」

「分かったから……今日は色々疲れた」


 そう言って息をつき、脱力する美雪。

 彼女の言葉に、私はハッとする。

 そうか……このお風呂だけではなく、今日は急に私が押しかけたりして、彼女に色々心労を掛けてしまったかもしれない。

 何か、私が出来ることは……。

 少しでも美雪に何か恩返しがしたくて、気付いたら、私は彼女の体を抱きしめていた。

 ギュッ、と。優しく。


「わ、ちょっと……」

「私も疲れた~」


 そんな風にヘラヘラと笑いながら、私は彼女の体を抱きしめる力を強くする。

 直接触れ合う肌の感触に興奮してしまうが、それよりも、彼女を労いたいという気持ちが強かった。

 というか……こうしていないと、いつかまた、彼女を独りにしてしまうような気がして。

 今私に出来ることは、少しでも長く彼女と一緒にいて、彼女を……独りにしないこと。


「ちょ、シロ……!」

「えへへ、美雪あったかい」

「それはお風呂が温かいから……! はぁ……」


 ため息をつく美雪に笑いつつ、私は彼女に背中を預けた。

 すると美雪は笑って私の体を後ろから抱きしめ、肩に頭を乗せてくる。

 彼女からの急接近に、私は動揺してしまう。


「……シロはさぁ、こっちの世界でしたいこととかあんの?」


 しかし、耳元で聴こえた美雪の声に、私は少し落ち着く。

 それから「んー」と声を漏らしながら、少し考える。

 この世界でしたいこと……。


「美雪と一緒にいたいくらいかなー」

「あっそ」


 素っ気ない調子で呟く美雪。

 それに、私は彼女の腕の中で体を捻り、彼女と視線を合わせる。

 私が振り向くなんて思っていなかったのか、「わッ……」と小さく声をあげた。

 凄く近い位置にある綺麗な顔に、私は首を傾げて見せた。


「美雪はさ、私としたいこととか無いの?」


 私の問いに、美雪は少し顔を引きつらせる。

 それから少し上の方に視線を向けて一考し、私を見て笑った。


「……無い、かな……」

「えー」


 不満げに言いつつも、それは分かっていた。

 美雪が……私じゃなくて、黒田さんを見ていることは分かっているから。

 私としたいことなんて、無いんだよね。

 でも良いんだ。私は……それで……。


「まぁ私も、シロと一緒にいられるだけで幸せだよ?」


 しかし、彼女は相変わらずの無自覚で爆弾を落としてくる。


「ホント!?」


 私がそう聞くと、美雪はそれに「もちろん」と言って笑った。

 それに、私はいよいよ感情が頂点を貫いてしまい、「美雪大好き!」と言いながら抱きついた。

 私達が浸かっていたお湯が波を立て、水しぶきが上がる。


「わ、ちょ、シロ! こんな狭い場所で暴れたら危ないでしょ!」

「えへへ~。美雪~」


 しかし、私は美雪の注意すらも素直に聞けないくらい、気持ちが高揚していた。

 私の言葉に美雪は笑い、「ハイハイ、私も大好きだよ」と言って私の体を抱きしめ返してくれた。


 ……分かっている。

 私と美雪の好きが、違うことなんて。

 そんなこと分かっている……けど……。

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