第11話 排除
晩ご飯の時間になった。
家族が勢揃いするのを待ち、私達は食事を開始した。
私は早速オカズであるピーマンの肉詰めにかぶりついた。
溢れ出る肉汁。ピーマンの苦み。
それに、私は口に手を当てて声を漏らした。
「わぁ……すごく美味しい!」
ピーマンの肉詰めを飲み込んでからそう口にすると、光子が嬉しそうな表情をした。
「そう?」
「うんっ! 美雪はいつもこんな美味しいご飯を食べてたんだね~」
私はそう言いながらさらにオカズを口にしていく。
どれもこれも美味しい。
弁当もそうだったが、光子の作る料理は絶品だ。
「ふふっ。おかわりあるから、遠慮なくたくさん食べてね?」
「はーい!」
「仔犬お姉ちゃん凄いなぁ。……それじゃあ、私のやつも一個あげるよ」
光子の言葉に賛同していると、美香ちゃんがそう言って自分のピーマンの肉詰めを渡してくる。
それに、光子が「美香?」と怒気を孕んだ声を発した。
「ピーマンが嫌いだからって、仔犬ちゃんに押し付けようとしてるでしょ?」
「ウゲッ……そんなこと……」
「美香~?」
「うぅ……」
どうやら光子の言葉が図星だったらしく、スゴスゴと自分の皿にピーマンの肉詰めを戻す美香ちゃん。
何やってんだか……と呆れていると、ずっと無言で様子を見ていた道也が「はっはっは」と快活に笑った。
「好き嫌いはいけないよ。美香も美雪や仔犬ちゃんを見習って、ちゃんと全部食べなさい」
その言葉に、ドキッとした。
美雪と私の名前が並べられたことに、胸が高鳴った。
きっと美雪も少しは意識してくれたかもしれない、と、私は美雪に視線を向けてみた。
美雪は……美香ちゃんを見ていた。
……は……?
「お姉ちゃんは良いよね~。ピーマン食べれて」
美香ちゃんの言葉が、左から右に流れる。
ねぇ、美雪?
今、私と美雪の名前が呼ばれたよ?
何で私を見てくれないの!? ねぇ!?
「美香の方こそ、中学二年生にもなって好き嫌いしないの。ホラ、食べさせてあげるから」
しかし、美雪は私を見ようとしない。
しかも……食べさせる?
何言ってんの? それって……つまり……!
「み……ゆき……」
動揺し過ぎて、喉から掠れた声が漏れた。
しかし、そんなものに反応せずに、美雪は美香ちゃんのピーマンの肉詰めを小さく切り、彼女の口に運んだ。
それに、私は固まった。
……あの女は……!
美雪と血を分けることじゃ飽き足らず!
美雪そのものを奪おうとしているのか!?
黒田さんならまだ良い。
彼女は美雪に好かれているから。
でも美香……お前は、美雪を独りにしただろ!?
沸々と憎悪のような感情が湧き上がって来るのを、私は深呼吸でなんとか落ち着ける。
少し、動揺し過ぎた……。
私はため息をつき、美雪の袖を引いた。
「ん?」
すぐにこちらを不思議そうな顔で見る美雪。
私はそれに、口を開けて見せた。
「どうしたの? シロ」
「さっき美香ちゃんにしてたやつ、やって?」
「「は!?」」
私の言葉に、美雪と美香ちゃんが同時に反応する。
いや、なんで美香ちゃんまで?
そこで、私はハッとする。
まさか……美香ちゃんも美雪のことが好きなのか?
それなら、全力で阻止をしなければ。
私は出来るだけ可愛らしい表情を作りながら、首を傾げて見せた。
「してくれないの?」
「あ、いや……一回だけね?」
私の言葉に美雪はそう答え、早速私のピーマンの肉詰めを細かく切る。
フフッ……チョロいチョロい。
頬が緩みそうになるのを堪えながら、私は口を開いた。
すると美雪はピーマンの肉詰めを私の口に入れる。
それを咀嚼すると、肉汁が溢れだした。
「美味しい?」
「うんっ! 美雪に食べさせてもらった方が美味しい!」
私の言葉に、美雪は困ったように笑ってため息をついた。
美雪……ここまで言っても、気付いてくれないのか……。
しかし、それは分かっていたことなので諦め、美香ちゃんの方を見る。
彼女の心は、まだ確実とは言えない。
しかし、もし美雪を好きだと言うのなら……全力で、排除するのみ。




