第2話 神
あれから、私にとって美雪が世界の全てになった。
美雪は私と同じで、一人ぼっちな子だった。
そりゃあ、私と違って捨てられたわけではない。
家族もいるし、学校では友達もいるみたい。
でも、家族の会話を聞いた感じ、美雪は私以外には本心を見せていないようだった。
私だけが……本当の彼女を知っていた。
その事実が、すごく嬉しかった。
けど、結局私は、美雪にとっては一匹の飼い犬でしかなくて。
……それでも良かった。
美雪は私に、幸せをくれた人だから。
私は、美雪がいればそれで良かったから。
だから……こうして美雪を助け死んだことに、後悔は無い。
車に轢かれそうな美雪を咄嗟に突き飛ばし、私は車に轢かれた。
多分、もう間もなく、私は死ぬのだろう。
霞む視界。小さくなる呼吸。道路に流れる血液。
少し視線を上げると、美雪が私を見て涙を流している。
彼女の涙を見た瞬間、私は胸がざわついた。
あぁ……ダメだ……。
まだ、死ねない……。
美雪を……一人にしたらいけないのに……。
私を死んだら、美雪がまた……一人になる……。
動け……私の体……。
私はまだ、ここで終わることなんて出来ない!
目の前が真っ白になる。
体の痛みも消えて……むしろ、今までより体が軽くなった気がする。
ここは一体……? と辺りを見渡していた時、銀髪の男が現れた。
「ふむ……強い未練を感じたから来てみれば……君は、獣か」
「……誰?」
そう呟いた瞬間、私は目を見開く。
今、私……喋った……?
驚いていると、銀髪の男は「あぁ」と呟き、腕を組む。
「紹介が遅れたな。私はこの世界の神だ。呼び名は何でもいい」
「かみ……」
神……それは、美雪達人間にとって、すごく偉い存在のことらしい。
私も概念としては理解している。
しかし、崇拝する気持ちは無かった。
だって、私にとっての神は……美雪だから。
「……君は、あの世界に未練があるようだね。しかも、すごく深い」
神の言葉に、私の頭に真っ先に美雪の顔が浮かんだ。
そんな私の思考を読み取ったのか、神はフッと微笑む。
「元々、未練がある人間というのは、成仏が難しい。下手な新神では成仏し切れずに霊魂として現世に残してしまうからな。だから未練が強いものはこうして私が出向いて直接浄化したりする。だが……獣でここまでの未練を持っている者は、初めて見たな」
「……私を、どうするの……?」
私の言葉に、神は顎に手を当てて考える。
少しして微笑み、口を開いた。
「君は……自分の未練を解決してみたくはないか?」
「私の……未練……?」
「あぁ。……私なら、少なくとも解決できる可能性を増やすことは出来るぞ」
「本当!?」
私が聞き返すと、神は頷く。
それに私は、考える間もなく承諾した。
「お願い、します……私は、美雪を一人にしたくない!」
「分かった」
神はそう言うと、私の目の前に手を翳した。
その瞬間、意識がフッと遠退き、目の前が真っ暗になった。
 




