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犬の恩返し  作者: あいまり
黒田花織編
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第15話 歓喜

 家に帰ると、私は速やかにコンタクトレンズを外した。

 そして制服のままベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。


「うー……」


 小さく声を漏らす。

 しかしそれでは足らず、私はもう少し大きめの声で呻く。

 ……嬉しい。

 ここまで嬉しいと思えることが今まで無かったから、この喜びをどう表現すれば良いのか分からない。

 私は枕に深く顔を埋め、しばらく呻き声をあげる。


 ……まさか、美雪さんと遊園地に行けるようになるとは思わなかった。

 予想外の幸福感に、私は枕を握り締める。


 しかし、まだ不安要素はある。

 まず、遊園地に行くこと自体初めてだ。

 どういう場所なのかは理解しているけれど、あくまで知識として知っているだけで、実際どんなものであるのかを全て把握しているわけではない。

 だからこそ、遊園地は未知の世界なので、不安だったりする。


 それから……私の病気のこと。

 別に寿命が差し迫ったりするほどの重病でもないし、大分症状は落ち着いている。

 しかし、初めての場所に行って、発作を起こしたりする可能性がある。


 その二つの点から……美雪さんと二人きりだと、不安なのだ。

 個人的には美雪さんと二人きりの方が嬉しいのだが、例えば私が発作を起こした場合、美雪さん一人で対処し切れると思えない。

 そう考えると、もう少し人は欲しい。


 それを美雪さんに言うと、白田さんと妹さんに声を掛けてくれると言った。

 妹さんはともかく……よりによって、白田さんか……。

 あんなことがあり、彼女の真相を全て把握した後だと、少し顔を合わせづらい部分がある。


 しかしそれを差し引いてもあまりあるくらい……嬉しい。

 なんせ、美雪さんと遊びに行けるのだから。

 行き場のない喜びを逃がすように、私はベッドをパフパフと叩いた。


 ブーッ。ブーッ。


 突然聴こえたバイブレーション音に、私はハッと顔を上げた。

 見ると、鞄の中のスマートフォンが鳴っているようだった。

 眼鏡を掛けてから画面を見ると、それは、美雪さんからだった。

 私はすぐに通話ボタンを押して耳に当てた。


「もしもし?」

『もしもし。クロ?』

「はい。なんですか? 美雪さん」

『今妹に確認したら遊園地行けるって。あと、シロもオーケイみたい』


 美雪さんの声が、どこか嬉しそうに聴こえた。

 私の妄想かもしれない。

 でも、その嬉しそうに聴こえる声が心地よい。


「そうですか」

『うん。……楽しみだね、遊園地』


 美雪さんの言葉に、私は「はい」と頷いた。

 確かに楽しみだ。

 私の返答に、美雪さんはどこか嬉しそうに笑った。


 それから二、三度連絡事項などを話し合い、電話を切った。

 私はベッドに仰向けに寝転がり、目を瞑った。

 美雪さんの声が、耳に残っている。


 私は……彼女が好きだ。

 この意志だけは、変わらない。

 私はとある決意をして、目を開いた。


 今度遊園地に行った時に……美雪さんに、告白しよう、と。

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