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犬の恩返し  作者: あいまり
黒田花織編
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第16話 期待

 ついにやって来た。遊園地。

 賑わう人々。楽しそうな遊具の数々。愉快なBGM。

 初めて見る物ばかり。

 目の前に広がる光景に私は目を奪われ、言葉を失った。


 しかし、それを差し引いて視線を引くものがあった。

 それは、私服姿の美雪さんだった。

 色白の肌に合う清楚な感じの服を着た彼女はすごく綺麗で、私はしばらく見惚れた。

 愉快で子供っぽい空間の中に、まるで間違って迷い込んでしまった聖女のような雰囲気を纏っている。


「これが本物の遊園地ですか……」

「え、花織お姉ちゃん遊園地来たこと無いの?」


 そう言って首を傾げるのは、美雪さんの妹の岡井 美香さんだった。

 ボブカットの髪に、姉に似た美麗な顔立ち。

 しかし、美雪さんと違って、美香さんの場合は活発そうな雰囲気がする。

 ……肌の色か?

 美雪さんは名前の通り雪のように白い肌だが、美香さんは少し日に焼けて、健康的な肌色だ。


「はい。だから、分からないことばかりで……」

「へぇ~、なんか意外。何でも知ってそうなのに」

「そうですか?」

「そうだよ~」


 美香さんとそんな風に会話をしつつ美雪さんに視線を向けると……何だろうあの表情は。

 引きつったような顔でこちらを見つめる美雪さん。

 彼女はこちらに駆け寄って来ると、美香さんと私を交互に見た。


「え……美香、クロとは初対面だよね?」

「うん? そうだよ?」

「でも、そんな……お姉ちゃん呼びにタメ口なんて」

「え~……だって花織お姉ちゃんって、お姉ちゃんのお友達なんでしょう? だったら私のお姉ちゃんみたいなものかなって」

「でも……!」


 そこまで言い争いをしていると、美香さんは美雪さんの耳元に口を近づけ、何かを囁いた。

 その瞬間、美雪さんは驚いたような表情を浮かべて口を開く。


「美雪!」


 しかしそこで、仲裁するような声が響いた。

 見ると、そこには……美雪さんの手を握っている白田さんの姿があった。


「美雪っ! まずはあれに乗ろ!?」


 そう言って指さすのは……えっと、ジェットコースターだったっけ……?

 私は美雪さんに渡されたパンフレットを確認する。

 しかしその時、美雪さんの表情がかなり引きつっているのが分かった。

 ……もしかして、ジェットコースター苦手?

 そう思っている間に、白田さんが「美雪~」と美雪さんの体を揺する。


「あー……ハイハイ分かったから。一回落ち着いて」

「むー……」


 不貞腐れる白田さんの頭撫で、美雪さんは困ったような笑みで私と美香さんに視線を向けてくる。


「シロがジェットコースターに乗りたいみたいだから、最初はジェットコースターで良い?」

「えぇ……私は構いませんが?」

「私も……仔犬お姉ちゃんが乗りたいなら」


 そう言って、美香さんは白田さんを見つめた。

 その表情はまさに恋する乙女を絵に描いたような顔だった。

 ……そういうことですか。

 まるで恋愛小説に出てくるような複雑な人間関係に、私はため息をついた。


 しかし……と、私はチラッと美雪さんに視線を向けた。

 たとえ周りで何が起ころうと、私が美雪さんと遊べるという事実に変わりはない。

 それだけで、充分嬉しかった。

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