第5話 起伏
翌日の昼休憩。いつものように一日を過ごすハズだった。
しかし、その日常は、一瞬にして崩れた。
……良い意味で。
「黒田さんっ!」
突然声を掛けられ、私は顔を上げた。
見るとそこには、昨日転校してきた白田さんが立っていた。
私は弁当を開こうとしていた手を止め、彼女を見上げた。
「白田さん?」
「黒田さん。一緒にお昼ご飯食べない?」
「えっ……?」
意外過ぎる言葉に、私は聞き返す。
そんな私に対して、白田さんは満面の笑みを浮かべたままそこに立っていた。
「二人で……ですか?」
「まさか~。美雪も入れて三人で、だよ! 美雪、黒田さんと仲良くしてみたいって! 私も黒田さんと仲良くしてみたいなって思って! ……ダメ、かな?」
……尚更わけがわからない。
私はなんとか気持ちを持ち直し、口を開いた。
「私は別に構いませんが……白田さんは良いのですか?」
「え、何が?」
「だって……白田さんは、岡井さんのことが好きなんですよね?」
そう聞いた瞬間、白田さんの笑顔が崩れた。
目が大きく見開いた状態で無表情のまま、真っ直ぐ私を見つめている。
どこか歪な表情に、私はたじろいだ。
その時、白田さんが顔を近づけてきた。
「わッ……!?」
「ねぇ、それ、なんで分かった?」
有無を言わさない口調。鋭い声。
それに私は答えることが出来ない。
すると白田さんは私の両肩を強く掴み、「なんで!?」とさらに強い口調で聞いてくる。
「なんでって……態度で分かりますよ……ずっと岡井さんのこと見ていますし……」
私の言葉に、白田さんは曖昧な表情で目を逸らし、私の肩から手を離した。
その反応に困惑してしまい。
なんだろう、この感情の起伏の激しさは……。
不思議に思っていると、白田さんは私を見てはにかんだ。
「ごめん。まさか気付かれてるなんて思わなくて、動揺しちゃった」
「はぁ……」
「私も黒田さんと仲良くなりたいし、大歓迎だよ!」
ダメ、かな? と。
首を傾げながら聞いてくる白田さん。
まぁ、彼女がそう言ってくれているなら、断る理由はないか。
私は息をつき、頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
「やった! じゃあ私、美雪探しに行ってくるから、先屋上行ってて!」
「え、屋上?」
「うんっ!」
頷くと、白田さんはすぐにどこかに走っていった。
その様子に私はため息をつき、弁当と本を持った。
人と食べるのだから本はいらないかもしれないが、私にとっては一種の精神安定剤の役割もある。
いらなかったならそれでいい。本を持っていないと、不安を抱いてしまう。
だから、私は本と弁当を持って、屋上に向かった。
屋上に出る扉を開けると、そこには、弁当を持って地面に座っている岡井さんの姿があった。




