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犬の恩返し  作者: あいまり
黒田花織編
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第6話 意志

「あら? 岡井、さん?」


 呟くように、そう名前を呼んでみる。

 すると岡井さんは何かに弾かれたように立ち上がり、若干赤らんだ顔で私を見つめた。


「あ、く、黒田さん……! どうして、ここに?」


 珍しく動揺した様子。

 へぇ……こんな風に動揺したりするのか……。

 私から見た岡井さんは、何事にも動じず、落ち着いた雰囲気があった。

 だから、こうして動揺を露わにしている姿は……年相応だと思った。


「白田さんに一緒にお昼ご飯を食べようと誘われて……それで、美雪を探しに行くから先行ってて、と言われました」

「あ、そう……」


 私の言葉に、岡井さんは納得した様子で頷いた。

 ふむ……何があったのかは分からないが、彼女も白田さんの奇行に巻き込まれたのかもしれない。

 まぁ、白田さんの考えていることも分からないし、理由の無い行動をとったとしてもおかしくはない……のか?


 岡井さんと白田さんは、白田さんが転校してくる前からの知り合いのようだ。

 きっと昔からこうして奇行に付き合わされたりしたのかもしれない。

 それでも、今でも仲良くしているということは、それだけ二人は固い友情で結ばれているに違いない。

 そう考えるとなんだか微笑ましくて、私は少し笑ってしまった。


「変わった人ですね、彼女は」


 笑いつつそう言ってみると、岡井さんはなぜか顔を赤くした。

 その理由は分からなかったが、言及するつもりはなかった。


 それから昼食を共にしたのだが……まぁ、会話は一切弾まなかった。

 というか、私の場合まともに誰かと話した経験が無かったので、どういう風に会話をすればいいのか分からなかったのだ。

 岡井さんからも会話を振ってくれなくて、あっさり昼食を食べ終えてしまった。

 仕方がないので、私は持って来ていた本を読むことにした。


 あぁ……ダメだなぁ……。

 本を読みながら、私はため息をつく。

 心のどこかで、期待していた。

 もしかしたら、こんな私にも、友達の一人や二人出来るのではないかと。


 しかし、結局そんなことはなく。

 岡井さんとの距離も縮められないまま、こうして本に逃げている。

 このままきっと、私は誰とも接することなく、年を取って死んでいくのだろう。


 ……嫌だ。

 そんな思考が頭を過る。

 ずっと一人きりなんて……嫌だ。

 でも、じゃあ……私はどうすればいい?


 チラッと、横目に岡井さんを見る。

 彼女は相変わらずの無表情で、昼食を頬張っている。


 確かに、彼女の存在は異質ではある。

 いつも無表情で、何を考えているのか分からなくて。

 でも、だからこそ、私は彼女に関心を持った。

 こんな情弱な私と違って、彼女は自分の強い意志を持っているように感じたから。


 私と彼女は違う。

 岡井さんには、彼女を慕う人もいるし、自分というものを保っている。

 それに比べて、私は孤独で、自分という存在を何度も否定する弱虫だ。

 でももしも、許されるなら……私は貴方と……―――


「く、黒田さんってさ、よく本読んでるよね」


 ―――友達になりたい。

 私の思考の隙間を強引に破るような言葉が聴こえた。

 顔を上げると、そこには、困ったような表情で私を見ている岡井さんの顔があった。

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