第6話 部活
翌朝。お姉ちゃんの様子がおかしかった。
何かを決意したような、清々しい顔をしていた。
これはまさか……。
「お姉ちゃん」
「何?」
「もしかして、仔犬お姉ちゃんと……ヤった?」
「は?」
「だから、夜の営みだよ! 恋人同士で愛を育み合う至高の……」
そこまで言った時、私の顔にお姉ちゃんの拳がめり込んだ。
どうやら違うらしい。
実際、仔犬お姉ちゃんに確認してみても、否定された。
「変なことはしてないよー? でもねー、美雪と一緒に寝たのー」
……いや、油断は出来ないな。
もしかしたら一緒に寝たというのは隠語かもしれないし。
警戒はしておこう。
しかし、それ以外は特に困ったことはなく、何日か過ぎて行った。
強いて言うならお姉ちゃんと仔犬お姉ちゃんで百貨店の屋上にある遊園地の観覧車に乗ったら観覧車が止まってゴンドラに閉じ込められる事故があったけど。
まぁ、そんなもの、些細な問題だ。
ある日……転機が訪れる。
「それじゃあ、今日の部活は終了」
先生の言葉に、私達は「ありがとうございました!」と挨拶をする。
私、岡井美香。テニス大好き中学二年生!
大宮中学校にて、テニス部部長やってまーす!
「美香、何か変なこと考えてない?」
「へ?」
思考が変な方向に進んでいると、それを察したのか、副部長である渡部千沙に声を掛けられた。
聞き返すと、千沙は呆れたようにため息をついた。
「まぁ、今日の練習はいつも以上にハードだったしね……美香が変になるのも仕方ないか」
「え、何その言い方……」
「別に」
「うぅ……」
私が黙ってしまうと、千沙はクスッと笑いつつ、ラケットをバッグにしまう。
同じようにバッグにしまっていると、千沙が口を開いた。
「……来年は受験だね」
「……だね」
「美香はさ、もう進路って決まってるの?」
「私は……頼巳高校にしようかなって、思ってる」
私の言葉に、千沙は大きく目を見開いた。
「えっ、頼巳高校って……この辺じゃ一番最難関じゃん!」
「うん。でも、今の成績をキープすればなんとかなりそうだし」
「あ、そっか。美香頭良いもんね」
ポカンとした顔で言う千沙に、私は頷いた。
すると千沙は「なるほどな~」と言いつつ、近くに落ちていたテニスボールを拾った。
「そういえば、美香のお姉さんも頼巳高校なんだっけ?」
「うん。今年で二年生」
「へぇ~。じゃあ秀才一家だ」
「そんなことないよ」
私が笑いながら言うと、千沙は笑いながら「謙虚だなぁ」と言った。
それから片付けなどを終え、私は家に帰った。
すると……―――家には、お姉ちゃんも仔犬お姉ちゃんもいなかった。




