第7話 最低
二人がいない理由は、なんとなく想像がつく。
デート……そう、デートだ。
両片思いor両想いであるあの二人のことだ。
それは分かっているのに……なぜ、こんなに胸が苦しいんだろう。
一応、お姉ちゃんに電話をしてみた。
本当にデートしていた。
しかも、かなり急いだ様子で電話を切られた。
……二人でナニをするつもりなんだか……。
「はぁ……」
ため息をつき、私は頭に被ったタオルケットを握り締めた。
ふと顔を上げると、窓の外に、雨雲が見えた。
もう少ししたら、雨が降るかもしれない。
仔犬お姉ちゃん達は傘持ってるのかな……仔犬お姉ちゃんが風邪引いたら嫌だし、雨降ること、言っておかないと……。
そう思って携帯電話を握り締めるけど、電話をしようとする度に胸が痛む。
「……最低だ、私……」
そう呟きながら、私は体を縮こませる。
好きな人の恋を応援できずに、上手くいかなければいいと思っている。
でも、嫌だよ……諦めたくないよ……。
どれくらい、そうしていただろう。
気付いたら眠ってしまっていたようだ。
口から零れた涎を拭いつつ、時計で時間を確認しようとした時だった。
「美香、いる?」
「……お姉ちゃん?」
掠れた声が出た。
扉の向こう側から私の名前を呼んだのは、他でもないお姉ちゃんだった。
まだ少しぼんやりする頭をどうにか働かせながら、私は状況を理解する。
そして、お姉ちゃんと仔犬お姉ちゃんがデートしていたという事実を思い出す。
その瞬間、居ても立っても居られなくて、私は立ち上がった。
「今、仔犬お姉ちゃんは?」
「え、シロ? シロは、もう部屋に戻ったけど……」
その言葉を聞いた瞬間、私は扉を開けた。
お姉ちゃんの腕を掴み部屋の中に引き込むと、扉を閉める。
自分で自分がしたいことがよく分からない。
分からないけど……体が勝手に動く。
「美香……?」
「お姉ちゃんはさ、仔犬お姉ちゃんとどういう関係なの?」
「はぁ?」
口から自然と零れた問いに、お姉ちゃんは相変わらずの無表情で聞き返してきた。
最近ずっと仔犬お姉ちゃんと一緒にいたから、久々に表情の変わらないお姉ちゃんを見た気がする。
「イトコ兼同級生……それ以外に無いでしょ?」
その言葉に、私は肩から力が抜けた気がした。
イトコ兼同級生……つまり、恋人ではないということ。
それを知った瞬間、安堵から、私はその場にへたり込みそうになった。
しかし、念には念をと言うし、私は再度問う。
「ね、それって本当のことだよね?」
「え、うん」
「そっか……そっか……」
心の底から安心する。
私が一人ホッとしていた時だった。
「まさかと思うけど、美香ってさ……シロのこと好きなの?」
お姉ちゃんがとんでもない爆弾を投下してきたのは。
私は思考が停止し、顔が真っ赤になるのを感じた。
「そそそんなんじゃないし!」
なんとかそう否定するも、お姉ちゃんは信じる様子は無い。
呆れたようにため息をつき、僅かに目を細めて私を見ている。
お姉ちゃん、もしやそれはジト目というやつですか?
私二人きりの時にお姉ちゃんの表情が崩れるのを初めて見ましたけど、初めて見せた表情がジト目ですかそうですか。
「えー……シロのどこが良いのさ」
「だ、だから違うって……!」
「姉の目は誤魔化せないよ? で、どうなの?」
「うぅぅ……」
仕方がないので、仔犬お姉ちゃんの魅力をお姉ちゃんに頑張って伝えた。
最初はまともに聞いてくれている感じだったけど、途中から相槌を打つマシンと化していたのを感じる。
でも、私は精一杯自分の仔犬お姉ちゃんへの想いを語った。
全てを語り終え、ひとしきり冷静になった時だった。
私の頭の中に、一つの打算が浮かんだのは。
「ね、ねぇ、お姉ちゃん……」
「うん?」
「仔犬お姉ちゃんとの恋……応援してくれる?」
お姉ちゃんに、仔犬お姉ちゃんとの恋を応援させる。
馬鹿みたいな作戦だとは思う。
でも、お姉ちゃんと仔犬お姉ちゃんが付き合っていないなら……少なくとも、お姉ちゃんの心へ、多少の重りにはなると思う。
自分でも最低だと思う。
でも、こうするしか、私に出来ることは無いと思うから。
「うん……良いよ」
そしてお姉ちゃんは、それを了承した。
「本当? 良かったぁ。仔犬お姉ちゃん、お姉ちゃんのこと大好きみたいだからさぁ」
私の言葉に、お姉ちゃんは無表情のまま微かに目を伏せた。
知っているくせに。
仔犬お姉ちゃんがお姉ちゃんのことを好きなこと、知っているくせに。
私はどこまで堕ちれば、気が済むのだろうか。




