第3話 若年性認知症
今日もいつものように一日が終わった。
疲れた……さっさと部屋に帰って漫画読もう……。
そう思いながら私は家の玄関を開け、中に入った。
すると、そこには玄関で立ち尽くす二人の姿があった。
一瞬、お客さんか誰かかと思った。
しかし少し見て、それがお姉ちゃんと仔犬お姉ちゃんであることに気付いた。
「あれ、誰かと思ったらお姉ちゃん達か~」
私がそう言うと、お姉ちゃんはなぜか焦りを露わにする。
お姉ちゃんがここまで表情を崩すのは珍しい。何かあったんだろうか。
そう思い視線を動かすと、キョトンとした顔でこちらを見ている仔犬お姉ちゃんの姿があった。
はうっ……可愛い……!
年上だけど、背が低いし童顔だから、綺麗というよりは可愛いという感想が真っ先に出てきてしまう。
「仔犬お姉ちゃんただいま~!」
つい感極まって、私は仔犬お姉ちゃんに抱きついた。
まぁ、仔犬お姉ちゃんもよくこうやって抱きついたりしてるから、いつものことだけどね。
しかし、いつもと同じように挨拶しているハズなのに、予想に反してお姉ちゃんと仔犬お姉ちゃんは不思議そうな顔で私を見ていた。
あれ……?
何か変なことしちゃったかな~と焦っていると、怪訝そうな感情を隠そうともせずに、お姉ちゃんが前に歩み出る。
そして……―――
「えっと……アンタとシロはどういう関係?」
―――……そう言った。
え、酷くない!? 冗談にしてもこれは無くない!?
いや、それよりも一つ気になることがある。
それは、お姉ちゃんの仔犬お姉ちゃんに対するあだ名だ。
シロって……確かに仔犬って名前であだ名は作りにくいかもしれないし、苗字はシロタだけどさぁ……。
折角のチャンスだし、この機会に言っておかないと。
「お姉ちゃん。仔犬お姉ちゃんのあだ名どうにかなんないの? こんなに可愛いのに、あだ名全然可愛くな……」
「そうじゃなくて!」
しかし、お姉ちゃんは私の言葉を遮った。
えー本当に何なの……しかも、珍しく感情的になっちゃって……。
お姉ちゃんは一度息をつき、続けた。
「……アンタ、シロと話したことあんの?」
……何言ッテンダコイツ。
いや、あるに決まってるし……ていうか、よく三人で遊んでたじゃん?
今になって急に何言って……まさか、認知症?
保険の授業で、若年性認知症というものについて学んだことがある。
高齢者じゃなくてもなる認知症のこと。
お姉ちゃんはそれを患っているのかもしれない。
「お姉ちゃん……ついに若年性認知症が始まったか……」
「ちがッ……!」
「何アンタ達玄関で騒いでんのよ」
私達の言い合いを聞きつけたお母さんが、困った表情を浮かべながら歩いて来る。
しまった……流石に玄関でうるさくしすぎたか。
お母さんはお姉ちゃん、私、仔犬お姉ちゃんを交互に見てから、ため息をついた。
「そんな、玄関からも上がらずに騒いで……仔犬ちゃんごめんね~? 転校初日で疲れただろうに、この馬鹿二人のせいでうるさくして……」
「えっと……一つ聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
あ、嫌な予感がする。
「シロと私達との関係って……何だっけ」
ホラやっぱり。
私は額に手を当てて、首を横に振りながら俯いた。
お母さんはお姉ちゃんのトチ狂った質問に、キョトンとする。
ここは私がきちんと仲裁に入らないと……。
「今更何言ってんのアンタ」
「お母さん。お姉ちゃん認知症始まったみたい」
「違うから!」
否定しなくても良いんだよお姉ちゃん。
認知症を治すには家族のケアが必要。そして本人が自覚すること。
まずはその一歩を踏み出すんだお姉ちゃん!
「まぁ、認知症の方はしばらく様子見ということにして……仔犬ちゃんとの関係って、アンタ等のイトコじゃない」
「イトコ!?」
あー……これはかなり重症だわ。
お母さん頑張って。私に彼女の病気を治すことはできません。
私はそそくさと靴を脱ぎ、手洗いうがいをするために洗面所に向かった。
その後で洗面所に出た時にお姉ちゃんに出会ったら、仔犬お姉ちゃんと同室であることすら忘れていた。
本当に大丈夫かな……仔犬お姉ちゃん、苦労しないと良いけど……。




