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犬の恩返し  作者: あいまり
岡井美雪編
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第25話 自業自得

 床に置いていた鞄を肩に掛け、早歩きでシロの手を引いて廊下を歩く。

 とにかく奴等からシロを離さなければ。

 ただその思いだけで足を動かし、歩いて行く。


 振り向いてシロの顔を確認すると、まだ怯えている様子で、眉をハの字にしたまま俯いている。

 ひとまず、どこかで一度落ち着かせた方が良いだろう。

 そう考えた私は、しばらく考えた後で、一階の使う人が少ない女子トイレに連れて行った。


 中に入ると、思いのほか清潔だった。

 いや、使う人もほとんどいないのだから当たり前か。

 一応換気扇も回っているし、窓も開けてあったので、匂いも特に無い。


「美雪……」

「大丈夫。ここにはあの人たちいないよ」


 そう言って笑って見せると、シロは安堵の表情を浮かべた。

 でもしばらくは落ち着くまで待った方が良いだろう。

 そう思いつつ、洋式トイレの扉に背中を預けようとした時、腕にシロが抱きついた。


「シロ……」

「怖かった……怖かったよぉ……」


 そう言って私の腕を強く抱きしめるシロ。

 私はそんな彼女の体を抱きしめ、白い髪を優しく撫でる。

 その時、数日前の美香の言葉が頭を過った。


『仔犬お姉ちゃんとの恋……応援してくれる?』


「ッ……」


 それを思い出した瞬間、私の体は強張り、ついシロの髪をクシャッと握りつぶした。

 すると、シロは私の顔を見上げ、「美雪?」と首を傾げた。

 一瞬、意識したんだ。


 もしシロが人間だったら……って。


 その瞬間、心臓が高鳴って、顔が熱くなったような気がした。

 今までシロのことは、ずっと飼い犬としてしか見ていなかったから。

 初めて人間として見た瞬間、よく分からない感情が芽生えたのだ。


「美雪~?」


 不満げに私の名前を呼ぶ声に、私はようやく我に返る。

 それからゆっくりシロの体を離し、ぎこちなく笑って見せた。


「ごめん……ちょっとボーッとしちゃった」

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」


 私の言葉に、シロはまだ不安そうだった。

 彼女を安心させるために―――あと、私がクシャッとした髪を直すために―――私は優しく彼女の髪を撫でてあげた。

 キョトンとするシロに、私は笑う。


「シロの方こそ、もう大丈夫?」

「うん。怖かったけど、美雪が一緒だったら大丈夫」


 そう言ってはにかむシロに、私は安堵した。

 もうシロも落ち着いたようなので、私達はトイレを出て、帰路についた。


「そういえば、シロはなんであの人達に絡まれていたの?」


 廊下を歩きながら、私はなんとなくそう聞いてみた。

 すると、シロは「ん~」と声を漏らした。


「なんかね、私がやったことが気に入らなかったみたい」

「シロがやったこと? 何したの?」

「クラスの男の子達にねー、“好きな女の子とデートに行くならどこが良い?”って聞いただけだよ」

「……」


 まさかの自業自得だった。

 そりゃそんなこと聞いたら、少なくともシロが誰かを狙っているということになるわ。

 いや、もしかしたら会話が聴こえなかった場合もある。

 そうなると、ただシロが色々な男子に話しかけまくってるだけという状況も出来上がるわけだ。

 美少女のシロがそんなことをするのを見て、彼氏に飢えているあのギャル共が黙っていないだろう。


「明日は女の子達に“友達と遊びに行くならどこが良いか”と“好きな男の子と遊びに行くならどこが良いか”を聞く予定だったんだよー」

「へぇ……」

「でもあんなことあった後だと、やだなー」


 そう言って目を伏せるシロに、私は「あはは……」と苦笑いをした。

 まぁ、何はともあれ、シロが無事そうで何よりだ。

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