第24話 媚び
身だしなみを整えたその次は何をするのかとシロに聞いてみると、シロは「ちょっと情報収集をしたいからしばらく保留ね!」と言って来た。
別に私は構わないのだけれど、一体何の情報を集めるのだろうか……。
不審に思いつつ数日程度様子を見ていた頃、事件は起きた。
その日、私は放課後に図書館に立ち寄っていた。
本を返し、別の本を借りたかったのだ。
最近はクロがオススメする本を読んでいる。
彼女が私に合うだろうとオススメしてくれる本がどれも面白く、最近は本の世界にどっぷり浸かっていた。
今日借りたのは、ホラー小説の短編集だ。
タイトルからかなりインパクトが強く、早く家に帰って読みたい欲求がある。
しかし、先に教室に立ち寄ってシロを拾っていかなければならない。
図書館に一緒に行こうと誘ったのだけれど、クラスの人にいくつか尋ねたいことがあると言っていたので、教室で待っているように言っておいたのだ。
借りたばかりの短編集を鞄にしまいながら廊下を歩いていると、私達の教室に差し掛かる。
扉は閉まっているので、開けようと手を出した時、教室の中から話し声が聴こえた。
……何やら、威圧的な声だ。
「……?」
不安に思った私は、ソッと少しだけ扉を開き、聞き耳を立てた。
「アンタさぁ、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないの!?」
これは、クラスでも派手めな女子の声……!
私は少しだけ開けた扉から教室の中を覗く。
黒と茶色の髪の女生徒が、何かを囲った状態でそれぞれ文句のようなことを言っている。
さらに目を凝らすと、その囲っているであろうものに、一瞬白い髪が見えた。
「調子になんて乗ってないよ~?」
間抜けな、聞き覚えのある声。
あの馬鹿犬は……!
扉を開け彼女を助けに行きたいところだが、ここであの派手系女子達を敵に回したら、これからの学校生活どうなるか分からない。
ここは、我慢を……。
「そういう態度がもう調子乗ってんじゃん」
「大体、男子に媚び売ってる時点で……ねぇ?」
は……? 男子に媚び? あのシロが?
『美雪~』
『美雪大好き~』
毎日のようにじゃれてくるシロの顔が浮かぶ。
あのシロが、男子に媚び……? 売ってなくない?
「媚びなんて売ってないもん!」
「じゃあ今日のアレは何なんだよ! 今更言い訳なんて聞きたくない!」
それと同時に、何かをガッと掴む音がした。
……まさか、胸倉掴んだ!?
流石に暴力沙汰になるなんて思っていなかった私は、セーラー服の裾を強く握った。
その間にも、言い合いは続く。
「カハッ……苦しい……!」
「苦しい……へぇ……じゃあちょうどいいじゃん」
その言葉が聴こえ、サッと嫌な予感が脳裏を掠る。
やめろ……その言葉は……。
『それ』をシロに言うことだけは……!
「だったらアンタウザいし……死んじゃえば?」
嘲笑するような声でそう言われるのを聞いた瞬間、私の中で、何かが弾けた。
気付けば、迷わず学生鞄を床に下ろし、教室の扉を思い切り開け放っていた。
ガララッ! と大きな音を立てて扉が開き、教室にいた女生徒とシロの目が私に向く。
シロを除いた人数は総数六人程度。
このクラスの女子四人。他クラスの女子二人。
それに一瞬怖気づきそうになったが、怯えた顔でこちらを見ているシロの顔を見た瞬間、私は怒りで頭の中が真っ赤になり、そこに大股で歩いて近づいた。
「みゆき……」
「……シロから手を離して」
いつもより数段低い声が出た。
ドスの効いた感じの声だが、それで怯むような奴はいない。
それもそうか。私みたいな地味な人間の言葉、聞くわけがない。
「は? なんでアンタの言うことなんか聞かないといけないわけ」
「……シロから手を離してほしいから」
そう言いながら、私はシロの胸倉をつかむ女子の腕を掴む。
なんとか力を込めてみるものの、そんなもの意味なんて無くて、少し袖に皺が寄る程度だった。
しかし、シロの肩を掴んで反対方向に押す形で、なんとか引き離した。
離れた瞬間、シロは「美雪っ!」と名前を呼び、私に抱きつく。
「は……誰かと思ったら、最近あの黒田に媚び売ってる岡井じゃん」
その時、どこかからそんな声が聴こえた。
誰かと思って見てみると、それは、以前まで一緒に昼食を食べたりしていたギャルの一人だった。
スカート丈が短い方だ。
「媚び……?」
「急に黒田にへつらってさ。何、アイツのこと好きな男子のおこぼれでも狙ってんの?」
何コイツ等……思い込み激しすぎない?
呆れていた時、私の服の裾を掴むシロの手が震えているのが分かった。
……怯えてる。
私はその手を握り、口を開いた。
「そんなわけないじゃん。大体、そんなことしないといけないほど、恋愛面で切羽詰まってるわけじゃないので」
「は!?」
「それじゃあ私達はこの辺で。……金輪際、私と、シロと、あとクロには関わらないでください」
それだけ言うと、私は後ろで震えているシロを「行くよ」と促し、教室を出た。




