第23話 妹
コンビニで傘を買い家に帰ると、母にいきなり助けを乞われた。
曰く、美香が突然不機嫌になり、部屋に閉じこもったのだと言う。
シロが行ったら勘に障ることしかしなさそうなので、彼女には買ったばかりの新しい服を渡して部屋に退散させた。
それから私は美香の部屋の前に立ち、二度、ノックをした。
「美香、いる?」
「……お姉ちゃん?」
部屋の中から聴こえる声。
いつもより声がワントーン低い。
本当に機嫌が悪いのだろう……今日は、確か部活だったか?
……まさか部活で何かあった?
そう思っていた時、扉の向こう側から声が続く。
「今、仔犬お姉ちゃんは?」
「え、シロ? シロは、もう部屋に戻ったけど……」
そう答えた瞬間、扉が勢いよく開かれ、私は腕を引き込まれ扉はしまった。
部屋の電気は暗く、なぜかそこにはタオルケットに身を包んだ美香の姿があった。
どうしよう。自分の妹がなんだかおかしくなっている。
「美香……?」
「お姉ちゃんはさ、仔犬お姉ちゃんとどういう関係なの?」
「はぁ?」
突然投げかけられた質問に、私は聞き返す。
どういう関係って……そんなもの……。
「イトコ兼同級生……それ以外に無いでしょ?」
まずこれが公式見解。
次いで、飼い主と飼い犬という関係もありますが何か。
私の返答に、美香は顔を綻ばせ、「良かった」と呟いた。
「ね、それって本当のことだよね?」
「え、うん」
「そっか……そっか……」
安堵した表情でそう言いながらにやける美香に、私は一考する。
……これはもしや……。
「まさかと思うけど、美香ってさ……シロのこと好きなの?」
試しにそう言ってみた瞬間、美香の顔が真っ赤になった。
それから手をバタバタとさせながら、「そそそんなんじゃないし!」と言う。
……分かりやすいなぁ……。
「えー……シロのどこが良いのさ」
「だ、だから違うって……!」
「姉の目は誤魔化せないよ? で、どうなの?」
「うぅぅ……」
それから美香に聞いたところ、シロは小さくて可愛いし、優しいし、天然っぽい部分があるところが可愛いのだ。可愛いばっかりだな。
しかし、改めて言われてみると、今までの美香の態度の理由もなんとなく分かる気がする。
玄関でシロに会った時にやけに甘えた感じで抱きついていたこと。
私がシロにアーンをしたら過剰な反応をしていたこと。
シロと一緒にお風呂に入ろうとしたら妙な反応をしていたこと。
今日、シロと出かけていることを知ったら不機嫌になったり電話してきたりしたこと。
全ての現象が、一つの線で結ばれたような気がした。
「ね、ねぇ、お姉ちゃん……」
「うん?」
「仔犬お姉ちゃんとの恋……応援してくれる?」
不安そうに呟かれた言葉に、一瞬、ドキッとした。
しかし、まぁ、私が応援しない理由は……あると言えばあるが、これを言うわけにはいかない。
貴方の想い人実は犬なんですよ~とか、そんな酷なこと言えません。
「うん……良いよ」
「本当? 良かったぁ。仔犬お姉ちゃん、お姉ちゃんのこと大好きみたいだからさぁ」
そう言って満面の笑みを浮かべる美香に笑いつつ、私は自分の胸に手を当てた。
別に、美香がシロを好きになって……上手くいって、シロが美香を好きになって両想いになったとしても、別に私にデメリットは無いハズ……。
確かに、この世への未練が無くなったらシロはいなくなるけど、でも……。
……この胸の痛みは、何なんだろう……。
 




