不法侵入、そして依頼。お金って、従順な労働奴隷を作るための立派なツールだと思うの。
なんとか自称ケンタウロスのサハギン(鮎)を振り切ってアパートに戻ってくると、部屋の中でお茶を啜っている銀髪メイドが居た。
「あ、おかえりなさいませ、千羽様」
「ただいま……って、どうして貴女が居るんです?
普通に不法侵入ですよね、これ?」
すると彼女は、頭上に疑問符を浮かべて……そして、何事もなかったかのように、またお茶を啜った。
「それはそれとして、千羽様」
「スルー!?」
「この家は、お客さんに茶菓子の一つも出さないのですか?」
「勝手に侵入したのに何言ってんのこの人?
てか、どこから入ったんです?鍵閉まってましたよね?」
「鍵……?」
いやいや、疑問符浮かべないでよ!?
私は肩をすくめると、諦念して彼女の前に腰を下ろした。
……このちゃぶ台どこから持ってきたし。
もうツッコミどころ満載すぎて何も言えないわ。
「それで、どうやって入ったんです?」
「そこの畳の下からですが」
そう言うと彼女は、部屋の右奥にある、一枚の畳を指差した。
「は?」
畳の下?
意味わからないんだけど。
そんな怪訝な私の感情を察したのか、銀髪メイドは、その畳と畳の隙間に指を入れて、クイッと持ち上げてみせた。
するとそこには、おそらくアパートの一階の部屋へと続く階段が見えた。
「わーお、くり抜かれてる〜」
……いや、そうじゃなくて!
「何してるんですか!?」
「まあまあ、落ち着いてください。
順番に説明してあげますから」
なんか上から目線でちょっと腹立ってきた……。
常識人だと思ってた私が馬鹿みたいだよ、ホント。
「それで、どうしてこんな事を?」
「…………趣味?」
おい。
ちょっとイラッときたので、メイドの頬を抓ってやった。
閑話休題。
「まずは、なぜ私達が貴女をアルドラへ招待したか。
その理由から話しましょう」
日向さん(メイドさんの名前)はズズッとお茶を啜ると、姿勢を正した。
彼女の放つ、真剣味を帯びたオーラに気圧されて、私も佇まいを直す。
何だろ、嫌に緊張するなぁ……。
「私たちは、あの浮遊城アルドラ――正確に言えば、元は単なる娯楽の為にご主人様がお創りになられた遊具だったのですが」
あ、まだケダモノって呼ぶんだ。
「最近……地球の時間単位で、ここ数百年は世界の管理という仕事もしていました」
……アレ?
いきなりスケールが大きくなった?
いや、あのお城(しかも空を飛んでる)が単なる遊具扱いだったっていうのも十分驚きなんだけれども。
「ですが、程数年前から、管理している世界の一つ、所謂、剣と魔法の世界と呼ばれるジャンルに属する、アミューという名の世界の住人が、この世界に飛ばされるという災害が起こりました」
……ん?
なんか、心当たりがあるような気が……。
なんだろ、このもやもや感。
頭の奥の方で、何かが燻っているような、変な感じ。
「それで、ここからが本題なのですが――」
日向さんはもう一度お茶を啜って、一拍置いて、要件を話した。
「――千羽様。貴女には、この地球に連れてこられたアミューの住人を見つけてきてほしいのです」
「ごめんなさい。無理です」
正直面倒臭いし、あなた異世界人?とか聞いて回るとか、完全にイタい子だし。
「見つけてきてくれたら、報酬を出しましょう」
「……どれくらい?」
「その時時によっても異なりますが……まあ、最低でも十万円は出しましょう」
「やります!!」
お金に負けた。