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てんくーじょーのあるじ  作者: 記角麒麟
11/13

噂話、そして懊悩。これ、絶対バレたら私の人生が終わるやつだよね?

「フフ、ワロス(棒)」


 なんとか生徒たちの人垣を乗り越えて、やっとの思いで帰宅した千尋は、なぜか平然とした様子でお茶を啜っている日向さんに、開口一番そう言われた。


「日向さん、ワロスって真顔で言わないでください。

 あと、(棒)は発音しなくて大丈夫です」


 疲れ果てた体で、千尋はそんなボケをぶち込んでくる日向さんに、眉を顰めた。


 あの後、集まってきた野次馬勢に加わるように、サイレンが聞こえてきた。

 千尋はなんとか【書界誘導スクリプトホール】にて、あのミミックを回収すると、CAUの馬鹿力に任せて、人垣を飛び越えて屋根伝いになんとかして帰宅してきたのである。


 もし、その注目の対象である魔法少女が自分だって知れ渡ったりしたら……。


 千尋はその先を想像して、ブルリと身を震わせる。


「(私が魔法少女だってことは、絶対に秘密にしておこう……)」


 そう、深く決意する彼女だったが、この時はまだ、日向の棒笑いの意味に気づいてはいなかった。


 ちなみに、その逃亡している姿を、多くの生徒がスマホで録画していたことには、彼女はまだ気がついていない。


 千尋は頭の中にインプットされたトリセツから、変身解除の方法を検索すると、それに従ってCAUを解いた。


 一瞬、桃色の光が弾けると、そこには元の制服姿に戻った千尋の姿があった。


「それにしても千羽様。

 どこでそんな物を手に入れたのです?」


 そう怪訝に聞いてきたのは、いつの間にかちゃぶ台を囲んでお茶を啜っていたマーク2だった。


 千尋は冷蔵庫の中のお茶のストックを気にしながら席に加わると、学校で起きたことを頭の中で思い起こして、とあることに気がついた。


「あ、鞄忘れてきた」


⚪⚫○●⚪⚫○●


 翌日学校を訪れてみると、空いたはずの校舎の大穴は完全に修復されていた。

 それはもう「え、何かありました?」と言わんばかりに白々しかった。


「……御影さん」


 ポツリ、と呟く千尋の声に、しかしそれに反応する声はない。

 なぜならそれは、千尋が昨日、御影が学校にやってくることを全力で拒否した結果だからだ。


 千尋は盛大なため息をつくと、恐らくこれは、御影さんたちの仕業なのだろうと当たりをつけて、これからは何があっても気にしないことに決めることにした。


 正門を潜り、昇降口へと続くレンガ道を歩くと、暫くして後ろから掛けてくる声があった。


「お姉様!」


 なぜそれが自分に掛けられた言葉だと理解したかといえば、それと同時に背中に柔らかい衝撃が伝ってきたからである。


「うぇ!?」


 驚き振り向いてみると、そこには妙にツヤツヤした赤城緋空がいた。


「お姉様、やっと会えました!」

「お、お姉様!?」


 ふわふわとした笑顔はそのままに、どこか昨日と雰囲気の違う彼女に驚きながら、千尋は緋空のセリフを復唱する。


「はい!

 事情は全て、日向さんから聞きました!」

「ちょ、ちょっとまって、赤城さん。

 話が飛びすぎて、何のことかよくわからないんだけど……」


 事情を全て日向さんから聞いた?

 いつ?

 ていうか、事情って何?

 もしかして、私があの「どこの魔法少女だよ!?」ってツッコまれそうな格好のロリっ娘に変身したってことも聞いたの?

 ていうか、どこからどこまでが全てなの?


 千尋はいきなりの彼女の発言に懊悩していると、近くを通った男子生徒たちの話し声が、ふと耳を掠めた。


「今朝のニュース見たか?」

「あー、見た見た!

 魔法少女だろ?」

「あ、アレ?

 なんでも、突然校舎の壁を突き破って現れたっていう」

「そーそー。

 なんでも、通りすがりのテレビ局のカメラが捉えたんだってさ」

「あ、俺知ってる!

 あの、なんか変な怪物と一緒に落ちてきたやつだろ?」

「CGじゃねぇの?」

「ちげぇよ。

 俺その時部活だったんだけどさ。

 見たぜ、その魔法少女。

 白パンだった」

「マジかよ!?

 すげぇな!」


 ……。

 ニュース?

 まさか……撮られてたの?


 段々と遠くなっていく話し声に、千尋は段々と顔色を失っていく。


「お、お姉様……?」

「ごめん、赤城さん。

 その呼び方やめてくれないかな?

 落ち着かないから」


 千尋は両膝に手をつきながらそう訴えると、疲れた表情で足下のレンガを睨んだ。


「(ど……どうしよう……。

 このままじゃ、確実にバレる……!)」


 もしも魔法少女の正体が私だってバレたりしたら……!


『魔法少女の正体発覚!〜なんと正体は高校生!?〜』

『魔法少女の正体に迫る!〜幼女の皮をかぶった危険すぎる高校生〜』

『魔法少女は実在した!〜なんと少女は高校生!〜』


 そしてそんな記事が出回った日には、記者会見、パパラッチ、盗撮、尾行、あることないことを言いふらされる毎日が始まる……。


 千尋は、ブルリと体を震わせると、ポツリと言葉をこぼした。


「絶対に、バレるものか……!」


 その小さく絞り出すような声は、しかし誰にも聞こえることもなく、虚空へと霧散していった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 教室に入ると、中は魔法少女の話題で持ちきりだった。


「(うわ……、絵に描いたようなテンプレだわ……)」


 千尋は、これでは噂を無くすという方法は無理だと項垂れる。


「うわぁ、凄いですねぇ……。

 クラス中、千羽さんの話題で一杯です……」

「ごめん、赤城さん。

 それあんまり言わないでくれる?」

「すみません……」


 懊悩とした表情で眉をしかめながらお願いする千尋に、緋空はしゅんと萎んだ。


 千尋は盛大なため息をつくと、席に座ってこれからどうしたものかと、再三悩み悶始めた。


 朝のホームルームで、昨日の魔法少女の件で何か知っていることがあれば伝えるようにと連絡をされた後、簡単に今日の予定を話して一時限目の準備時間が訪れる。


「(さて、これ絶対にバレたら面倒なことになるよね……)」


 今朝のHRでさり気なく伝えられる、昨日の事件に対して、千尋は頭を悩ませた。


 正体がバレるとしたら、どこからバレるだろうか。

 確率として最も高いのは、やはり緋空だろう。

 なら、どうにかして彼女に口止めしてもらうしかない。


 これからの事を考えて、面倒な気持ちになりながら、千尋は鞄から一限目の準備を取り出した。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 授業が終わり、最初の休み時間が訪れた。

 そして今は、校舎裏の人目のない場所で、千尋はとある少女と見つめ合っていた。

 言わずもがな、それは当然赤城緋空である。


 緋空はなんだか落ち着かない様子でこちらを上目遣いに顔を覗いていたが、十分しかない休憩を無駄にしたくはなかったので、千尋はそんな彼女に単刀直入に話を始めた。


「赤城さん。

 今朝、日向さんから全部聞いたって言ってたけど、具体的に何をどこからどこまで聞いたのか、教えてくれるかな?」


 そう。

 その内容は、ずっと朝から気になっていた事だった。

 場合によっては、口止めとして何か策を講じる必要だってある。


 いや、もう面倒くさいし、一人で魔法少女のコスプレするのとか嫌だから、できるなら緋空も巻き込んでしまおうか。


 そんな思惑の中、千尋は緋空の次の言葉を待った。


「えっと、千羽さんが受けた仕事の内容と、魔法少女になった経緯を教えてもらいました」


 ふわふわとした声音で、しかし先日の彼女とはどこから趣が違う……具体的には、少し熱が入っているような、そんな口調で、彼女はそう答えた。


「(それって、文字通り全部じゃん……)」


 これは、もう隠すことも無理そうだと、当初の予定を変更して、次策として決めていた話を持ち出す事にした。


「そっか……。

 じゃあ、アミューのことは聞いたんだ」

「はい。

 びっくりしました!

 だからあのオバケも怖くなかったんですね!」

「いや、それはちょっと違うんだけど……」


 あれは緋空が予想以上に怖がっていたからな……。

 自分よりリアクション大きい人を見ると、かえって冷静になるって本当だったんだね、アレ。


 ……そういえば、あのサハギンのときもそんなに驚かなかったような……。

 あ、アレはそうだ。

 怖いというよりも先に気持ち悪いって思ったのと、何か助けてって呻いてたからだわ、うん。


 千尋は少し肩をすくめると、ズレた推測を話す彼女に話を続けた。


「それでなんだけどさ、赤城さん。

 私と、その仕事引き受けてくれないかな?」

メモ:この日は2020年4月3日金曜日

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