第35話『やはり親友とする馬鹿話は楽しい』
寮へ戻って独り、ベッドに寝転がりながら天井を眺めて考える。
改めてイレギュラー的展開とは、なんだろう。
「もう既に数回体験しているし」
ゲームを遊んでいるとき、思い返せば教師の戦闘は中盤まで目にすることがなかった。
そう考えると、物語通りに話が進んでいることを探した方が早くもある。
授業中にミナトである俺が、主人公であるカイトへ魔法を教えた。
雑誌をミナトである俺が購入し、カイトへ手渡すことができた。
失敗したけどハサミイベントは起きた。
カリナがミナトである俺への好意を抱き続けている。
この4点ぐらいか。
直近で先の話だと、選択授業の話し合い。
これがどう転ぶかによって全ルートの各方面へ進んでいく。
選択肢は2択なのに、進むルートの各分岐は×2の計6パターン。
そこから進んでいくと更に分岐して分岐して、枝がありえないほど増えていく。
「今もこうして苦労しているのに、既に頭が痛い」
しかもここにイレギュラー的展開が混じってくるなら……ああ、考えたくない。
迷いを握りつぶすように拳を突き出して握る。
「でも頑張らないと、最後に待っているのは自分の最期」
あっちの世界では正直、生死に関して深く考えたことはなかった。
身の回りでの不幸もなかったし、ペットとの別れも飼っていないから経験したこともない。
そして、“自分の死”なんて人生の中で一度たりとも考えたことがなかった、この世界で生活するまでは。
いざ考えてみても想像できないし、痛いのか苦しいのか、寂しいのか後悔するのか、どれもピンとこない。
そのときが訪れたとして、何を思うのだろう。
既に会うことができない両親に対し「親不孝でごめんなさい」とは思うだろうけど、それ以外はどうだろうか。
「戦って死ぬなら、痛みはあるだろうな」
腕を下ろし、胸に手を当てる。
刃物で斬られたこともないし、ましてや剣を体へ突き刺されたこともない。
想像できない痛みを理解することはできないけど、人生の中で一番痛かった木登り中の落下を思い出す。
今でも背中から貫通して腹部付近にも痛みが到達し、呼吸が浅く早く苦しくなっていく感覚は鮮明に蘇る。
「あれは本当に痛かった。小学生ながらに死んだと思ったもん」
あ、そのタイミングで死んだと思ったことがあったな。
嫌な記憶を遡って思い出したから複雑な心境だけど、咄嗟なもので暗いものではなかったことは確かだ。
各キャラクターとの別れは寂しく思うけど、正直、今は表面上の付き合いで1人の人として向き合うことができていないのは事実。
人を人として見ていない、とは失礼が極まっていることは自覚している。
でもさ、数日前までゲームとして遊んでいたキャラクターたちを、1人の人間として接するのは難しいよ。
「ルートを選んでいるのか、選ばされているのか」
握る手を開き、少し温もりを感じるからミーシャと手を繋いで帰った出来事を思い出してしまった。
「せ、せっかく忘れられていたのに」
一気に体が熱を帯びる感覚に襲われた。
「俺は立場を利用して、なんてことをぉ」
安心させたい一心で起こした行動で間違いはない。
でもやはり、『この立場でなかったら成しえていた功績か』と問われると自信を持って返事は無理だ。
ミーシャに嫌がられていたら、早い段階で手を離されていただろう。
でもそうじゃなかった。
ということはつまり!?
「――なんて期待を膨らませるのは間違っているよな」
学園で青春を謳歌するのであれば、恋愛要素を中心に考えてもいいだろう。いいのか?
少なくとも自分自身の最期を迎えないため、必死に行動していることを忘れてはいけない。
それに、立場を利用した恋愛は“本物”と言えるのだろうか。
偽りの感情、とまでは言わないけど、相手をキャラとしてではなく人間と認識している時点で間違っていると思う。
「はぁ……キャラと立場のおかげで学園生活含む全てがストレスフリーではあるけど。うーん」
そもそも正体を隠し続ける必要があり、暗躍しつつ希望のルートへ進んでいかなければならなず。
学園生活は、馬鹿を一緒にやれる親友が居るから素直に楽しい。
「大変なことがあるとすれば、座学とカリナの存在」
体を起こし、ベッドから立ち上がり窓辺へ移動。
月を眺めながら天敵でもあり宿敵でもある存在を思い浮かべる。
「綺麗でかわいくて一途。成績も優秀で実技も申し分ない。カイトに負けず劣らずのモテっぷり」
そんな存在が近くに居るなんて、普通に考えたら羨ましい以外の何ものでもない。
設定というか現時点での認識だと、本当に血の繋がった姉弟と認識している。
遊んでいたときも、結局エンドコンテンツで明かされたから俺もちゃんと欺かれた。
奇跡的に髪と瞳の色が同じで、奇跡的に誕生日が一緒、奇跡的に同じ家で育ち――なんて、誰が推察できるの?
後出しの後付けな設定だったら、運営へを文句言ってもギリギリ許されるでしょ。
「現時点では証拠を出せないから、真実と証明できなくて歯痒い」
証拠が発見されるのは、後半に入ってゲート攻略でレベル上げをするタイミング。
ゲート内に巨大遺跡や施設が出現するようになり、そこから情報を集めたり謎解きが始まる。
だから任意のゲートを出現させられない現状では、手の施しようがない。
「恋愛的感情を抱いていて蓋をする相手と、この先どうやって接したらいいんだ」
頭を抱えていると、ドアがノックされる。
「はいどうぞ」
「まだ来てごめん、教えて欲しいことがあって」
「いいよ」
カイトを部屋へ招き入れる。
「それで何?」
「ほら、そろそろ選択授業の先を決めなきゃじゃん?」
「なるほど」
こんなタイミングできたか。
「前衛術は攻撃系を主に教わるとして。後衛術って、どうなの?」
「授業でも説明があった通り、仲間の支援が主――ではあるけど、防御面の練習もする」
「防御魔法は共通だったね」
「うん。その中に、カイトが得意な方である身体強化魔法も項目にあったよ」
「見落としていた」
それは、ちゃんと授業を受けようね?
「だから正直、半分はやっていることが一緒ということだね」
「なるほど」
「どっちを選んでもいいし、1回は変更できるから気軽に決めていいと思うよ」
「たしかにその通りだ」
まあ1カ月以内に変更が可能だから、遅くなればなるほど過ぎた授業を受け直すことはできないけどね。
しかも、その授業内容がテスト範囲という鬼仕様。
選択先を躊躇ってしまうのは、正直仕方がないと思う。
「じゃあ僕は前衛術にしようと思う」
「そうか。じゃあ選択授業のときは別々になるね」
「知り合いがいないから寂しいけど、これも一種の親離れだと思って」
「誰がカイトの親じゃい!」
「あははっ」
ついノリツッコミをしてしまった。
でもこれで、カイトとアリサが顔を合わせることになる。
やっと1歩前進と言ったところか。
後はミーシャも前衛術の授業にしてもらいたいけど……。
明日、どんな顔をしてミーシャと話したらいいんだよぉ!
「どうしたの? 熱でもあるの?」
「いいやなんでもない」
しかも顔と目を合わせて話し合い、説得までするなんて難易度爆上がりじゃん!
うわぁああああああああああああああああああああ!
「体を動かし足りないの?」
「い、いいやなんでもない」
「急にその場で走り出して、なんでもないは無理があるでしょ」
「心配しないでくれ、問題ない」
「そ、そう?」
あからさまに疑いの目線が注がれているけど、気にしていられない。
はっ!? 目の前に女子と毎日毎日話しているイケメンが居るじゃないか!
「な、なあカイト。アドバイスが欲しい」
「ん? 僕にできそうなことならいいよ」
「じょ、じょじょじょじょ」
「じょ?」
「女子とスムーズに会話するテクニック」
「え? 女子と?」
「うん。お願いします」
カイトは『お前は急に何を言い出すんだ』、という驚愕の表情を浮かべながら目を点にしてる。
仕方ないでしょ! 経験が浅すぎるんだから!
「ん~。細かく考えたことがないからなぁ」
さすがモテモテイケメン、たった一言で圧倒的な差を見せつけてくる。
「小難しく考えると相手に伝わっちゃうから、誠意をもって本心で話せばいいと思うよ」
「無理があるって。それができたらアドバイスを求めていない」
「まあ……本心から『あなたと話したい』と思っていたらいいと思うよ。それなら難しくないでしょ?」
何それ、心の中で相手に告白でもしろって言うのか?
「要は何気なく日常的な雰囲気で接しろ、ってことで合ってる?」
「そうそう、そういうこと」
ふんっ、それが恥ずかしくもなくできる人間に言われると、お腹の中で煮えたぎるものを感じるな。
「わかった、やってみる」
「でもミナトから相談を受けるなんて珍しくて驚いたよ」
「俺にだって悩みはある」
「しかも女子と話すなんて。怖くないの?」
「だったら、もしも見つかったら姉さんを止めてくれ」
「それこそ無理な相談じゃない?」
「親友の頼みだぞ? いろいろ教えたりしてるんだから、少しぐらい体を張ってくれてもいいでしょ」
「す、少しって……骨が数本折れるぐらいだよ」
「それでも頼むよ」
わかる、わかるぞ怖いよな。俺も怖い。
「頼むカイト。やるしかないんだ」
「――わかったよ。日頃の恩を返さずして、何が親友か。ってね」
「頼もしくて泣きそうだよ」
「ねえそれ、弔いじゃないよね? 僕だって死にたくないから無理だったら逃げるよ?」
「お前のことは一生忘れない」
「聞いてる?」
「ぐすっ」
一滴も垂れていないけど泣き真似をしてみる。
「話って終わり?」
「いや切り替えはやっ」
「俺も1人の時間を大切にしたいし?」
「わかった退散するよ。相談に乗ってくれてありがとう」
「はいよ」
めんどくさい絡みはせずされず、部屋を出て行くカイトの背中を見送る。
「はぁ……羞恥心と戦いながら妄想して予行練習するか」
ここまで読み進めていただき、本当にありがとうございます!
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