第13話『生き残る未来を考えるための挑戦』
さて、いよいよ運命の放課後時間に突入。
あのイケメンな物語主人公であるカイトは、俺にウインクだけして教室から一目散に出て行った。
意図は「頼んだぜ、相棒っ」という、完全に俺任せであると同時に、親友だからと信頼してくれている事実に暴言は捌けない。
しかし付け入る隙はある。
なんてったって、カイトは今日も今日とて告白されに行くからだ!
たぶん1人だけじゃないはず。
ああ、ちくしょうがっ!
「――」
嵐の海みたいな感情は、周りの目があるからグッと抑えなければならない。
なんせ、既に目的地であるショッピングモールへ到着してしまったからだ。
周りには、人、人、人。
時刻は16時ということもあり、老若男女にペットが行き来している。
世界観的には現代的な要素が多くあるため、普通に自動ドアもあるしコンクリートであろう数階建てのビルもあって。
車もバスも電車だってあるわけだけど、なぜか電話とスマホ、テレビなんかの情報を得る機器系統はない。
これは世界観、というよりも『進行に不都合だから排除された』のだろうが。
「今日のご飯は――」
「授業のノートを――」
そんな、他愛のない雑談が耳に届いてくる。
ゲームとして遊んでいたときも、カイト視点ではあったものの雑音程度ではあった。
だからこそ意識することはなく、もはや鮮明に聞き取ることはできないものだった。
しかし今は聞き取ることができてしまうからこそ、逆に物寂しさを覚えてしまう。
ここが夢であれ世界に入り込んでしまったであれ、先の未来を考えてしまうし、孤独も同時に感じてしまうから。
「――」
さて、と。なぜ、わざわざショッピングモールに来たかというと。
コンビニという名の売店があるのだから、わざわざこんな場所に来る必要はない。
俺は今回、表ルートで関係してくる物品を前もって手に入れようとしている。
そう、それはハサミだ。
本当に、ただのハサミ。
しかし表ルートでは、ほぼ必須アイテムであり、カイトとミーシャが関係性を構築していくためになくてはならない。
大袈裟なイベントではなく、解れてしまった糸を切るために使う。
「いらっしゃいませ~」
世界観は把握していても、隅々まで知っているわけじゃないから少し心配だった。
でもちゃんと文房具店はあったし、入店して凄まじい品々にあるはずもない圧を感じてしまう。
しかし足を止めていては、完全に不審者だ。
店内を歩き回り、次々に視界へ飛び込んでくる新しい発見の連続に楽しくなってきてしまう。
文房具なんて、用途通りに性能を発揮してくれたら問題ない、ぐらいしか思っていなかったけど――外見、長さ、太さ、色違い等々を目の当たりにすると購入欲が駆り立てられてしまうな。
「お探しの商品は見つけられましたか?」
「え、あ。い、いえ」
急に横から声をかけられたものだから、言葉が詰まってしまう。
「ハサミを探していまして」
「彼女さんにプレゼントですか?」
「いえ、そういうわけでは」
さすがに目線を店員さんに向ける、と。
「え」
「私が一緒に選んであげるね?」
「どうしてここに」
なんということでしょう。
まさかのまさか、そこにはミーシャが居た。
「ふら~って寄ってみたの。そしたらミナトくんが居て」
「な、なるほど」
「ハサミはあっちだよ」
理解が追い付かないまま、ミーシャに案内されるがまま足を進める。
でもそうか、困惑する必要はないな。
カイトは告白イベントの最中だし、ゲームで遊んでいるときもミーシャの同行は把握していなかった。
違う違う、そうじゃない。そうじゃないでしょ。
「ここだよ」
「ありがとう」
問題大ありなんだよ。
だって、今から俺が買うのはカイトに渡してミーシャへ渡るハサミなのだから。
遠回しにプレゼントと言えばそうだが、一番知られちゃいけない人物と選ぶって……どう考えてもマズいでしょ。
「やっぱり男の子だと、黒とか?」
「まだ決めてない」
「逆に青とかってどう? 髪の色と同じで似合うと思うの」
「そ、そう?」
どうするどうするどうする。
こんな状況、1ミリたりとも想定していなかったぞ。
ぎ、逆に活かせるか……?
「ミーシャが選ぶとしたら、どれにする?」
「う~ん」
そうだ、誕生日のプレゼントを前もってそれとなく聞く、アレだよアレ。
好みを把握していたら、今回は無理かもしれないけど今後の役に立つ!
「じゃーあー。この、持ち手が透き通った青いハサミ」
まあ、今の話をした後だからそうなるか。
ここでは乗り切って、またタイミングを見計らって買おう。
「アドバイス通り、それを買おうかな」
「本当?」
「うん」
「じゃあじゃあ、私も同じやつにする」
「そうなの?」
「そうなの」
少し嬉しそうな声色と表情だけど、俺とお揃いになることへの抵抗はないのだろうか。
と、疑問を口に出す暇は与えてもらえなかった。
「決まったことだし、会計しに行こ」
「ああ」
2本のハサミを持ったミーシャに手を引かれ、俺は流れに身を任せる。
今回、目的を果たすことはできなかった。
しかしミーシャの好みを聞き出すことはできたから、収穫がなかったわけではない。
さすがにイレギュラーな展開に動揺を隠せなかったけど、寮を抜け出して買いに来たっていいわけだから、まあいいか。
お揃いのハサミを使うことになってしまった――ん? 待てよ?
ここでミーシャがハサミを買ってしまったら、後のイベントはどうなるんだ?
「お会計ありがとうございました~」
あ、支払いを終えてしまった。
「またのお越しをお待ちしております」
トントン拍子で店の外へ。
「私、他にも用事がるから。また明日~」
「うん、また明日」
嬉しそうに大きく手を振るミーシャを見送り、俺は心がやっと追いついた。
え、どうしよう。どうなる?
しかし立ち止まっていられる時間の余裕はない。
なんせ、寮には門限があり、最大の目的であるエロ本もといファッション雑誌はまだ手に入れていないのだから。




