第62話 神器の能力者
「ああ、来たか、あがっていいよ」
「貴方がライズ様……」
「その名は捨てたよ。今の私はただの一般人の神八聖さ」
「寿命を無視して体を点々とする時点で一般人とはいい難いわ」
「確かにそこに関して否定はしないよ。ただ魔法も使えないしその他は何も他の人と変わらない。私はいたって普通で、そのありふれた普通を手に入れたんだよ」
「俺たちは羅琉から秘伝書の情報を教えてもらいました。そしてあなたの正体も知っている。そろそろ教えてもらえますかね。到来する危機に対してどう考えているか」
「うん、羅琉もいることだし、もう十分君たちも私の話を聞く資格を持っているといえるね」
―
私は転生体としてこの世にアートを送り込んだ。
本来私は異世界転生を果たしてから現実世界に帰ることを目標に動いていたんだ。
結果としてそれは達成された。
アートを私の傍に引き込んで、無事魔王フロロメを討伐した。これで全てが終わるはずだったんだ。
でも私にとって想定外の出来事ができた。
アートも現実世界に行きたいっていうんだよ。第二の人生をそこで過ごしたいとね。本来彼は私を送り出すだけだった。
私はこの時、困り果てた。現実世界に行ける人物は4つの神器の1セットにつき1人だ。
私も現実世界に帰りたかったけど、私は一度アートの人生を狂わせてしまった。私のせいで彼は神器を手に入れ、魔王フロロメを倒すために、冒険者として人間不信になっておおくの仲間を犠牲にしたんだ。
当然救われるべきは彼の方だ。私は快く彼を送り出したよ。
それから時間が経過してアートは寿命を迎えた。
魔王フロロメを倒したことで神器を使えば私はいつでも現実世界に行くことができる。神器は装備者が消えた時、元の所持者の元に戻る。だからアートが亡くなった後、再び現実に戻る権利が与えられた。
神器はアートに酷い宿命をあたえたんだ。だから神器には、私が教えてあげるんだ。人を侮るなよと。
前半の計画は私が現代に持ってきた神器を電子化してプログラムウイルスにすること。これにゲーム具現化による一種のサバイバルが起きる。彼らはその中であらゆる刺激を感じることになるだろうね。
そして後半の計画はプログラムウイルスから自立した存在を創り出すこと。それは成功した。
神器は装備者が倒れた時に液状化してなくなる。そして異世界の神器として復活してその意思が引き継がれる。この神器はプログラムウイルスとして電子化して消え去った。だけど液状化した神器には意思の痕跡が宿るんだ。これはどうしようもないよ。私には対処することが出来ない。
神器の記憶は全て意思として共有されている。だから適合者との記憶も神器の中に引き継がれているだろう。
プログラムウイルスとしての神器は消え去り、今頃再び異世界に戻っているはずだ。だが、私が現実世界に戻ったことにより、現実と異世界をつなぐルートは絶たれた。彼らには十分人の気持ちを理解してもらえたんじゃないかな。後は人を侮るその心をここで今払拭させてもらう。
―
「アートから液状化した神器の痕跡、それこそ現実に残る、最後の脅威といえるだろね。次期に彼らは人に適合し、一般社会に紛れるだろう。そうなったら対応できるのは君たちだけってことだ」
「……あのすいません神八さん、長すぎて何を言っているのか分かりませんでした」
「私もさっぱりわかんなーい!」
「あははは、麗美ちゃんと春樹氏は頭が空っぽだものね、ざっこ!」
「ひっどーい由愛ちゃん、私だって頑張ってるもん!」
「てめえは理解できたのかよこのメスガキが! ごめんウソ一回言ってみたかっただけ」
「だ、だれが、メスガキですって!」
麗美もからかわられて由愛にちょっとイラっときて、つい口を滑らせてしまった。それに対し由愛は顔を真っ赤にして口を膨らませた。
「いやだから嘘だって……由愛には理解できたのか?」
「ええもちろん! だって私はずっとナノの実験体にいた時からプログラムウイルスβとコミュニケーションをとっていたもの。その神器の中にβがいたら是非あってみたいわね」
「記憶は引き継がれているはずだからね。そんな昔から対話をしていたなら少しは分かり合えるかもしれないね」
「でも気おつけて、神器は女神級の魔物の戦利品で、人の理解の及ばない超越した思考をしているの。それにβ以外のものの人格はおそらく暴走した内村礼や堀本凜に近いものとなっているわ。だから下手したら全てがゲーム世界に包まれることとなる」
「うーん、つまりどういうこと?」
「私がライズ様の言っていること簡潔にしてやろう」
「流石天才集団ライズのNo1だ」
「うーん私はちょっと、こういうのを簡潔に説明するのは苦手だからね。羅琉がこの場にいてよかった」
「お褒めいただき光栄です。そして春樹と麗美、お前たちにライズ様が望んでおられることは、超越的な思想を持つ女神級の魔物から生まれた神器の転生体が、アートがなくなった後に液状化して痕跡として具現化すると思われる4つの能力者を実力で叩きのめして人の力を神器に教えてやれということだ」




