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第48話 最期の時

俺は倒れるαを見下ろしている。


「僕はもう長くはない。最後の一秒まで残りの生の時間を噛みしめさせてくれ」


「見届けてやるよ」


「君らしいことだ。思えばαが宿ったあの日から僕の見ていた光景の全ては虚妄に終わったんだ。終局が始まる。もうだれにも止めることが出来ない」


「うん、もうおしまいだろうな」


「いったい何が起きてこうなったんだろうね。とにかく今の僕はたくさんの外的要因によってこんな悲惨な末路を迎えてしまったんだろうね」


「いや、お前が自己中なせいだろ」


「なんでこんなに時間が進むのが速いのだろうね、この世に僕はもう未練がないから何も言うことはないけど、もし力があったら時間の流れをゆっくりにしたいものだな。あの日の激情はいまだに覚えている。僕は他とは違っていた。これは普通をもたらざる者の逆襲だった」


「お前の敗因はそこだよ。普通を持たないからって逆襲なんかするな。その感性まで普通の人とズレる必要はないだろうが」


「僕はずっと穂美香のあの表情を覚えているんだ。劣等種どもに、少し優れているから、違うからと、差別的な目で見られ、嫉妬され、醜い、僕から言わせてみれば感性がずれているのはそいつらだ。人を差別しておいて何が普通だ」


「まあ、それに関してはなんともいえんな。俺個人としてはそんなことをしないけど、振り返れば俺をぼこぼこにしてきたヤンキーみたいなやつらもいるし。でもだからって一線は超えちゃいけないぜ、これは常識だろ?」


「それがくだらないんだよ。αが僕の手から離れてから感じることがある。もし今から奇跡的に現実世界で過ごすことになっても、その残酷さを前に心をずたずたに引き裂かれるのだろうと。その空白を埋める存在、それは僕にとっては紛れもなくαだったんだ」


「まあ、そりゃああんな事象を創り出す能力が現実で使えたらわくわくだろうな。最高の気分だろうぜ。普通はありえないけど」


「小さいときはこんなことは知りもしなかった。全てはスクールという檻に包まれてあらゆる権利が拘束されてたんだから。でも今の僕なら分かるよ。同時に守られてもいた。現実世界では全てはそこから出た時が始まりなのだと。洗礼を受けるのだ。自由と安全からの解放、罪を背負えばそれ同時に清算が始まる」


「お前高校生なのにどんだけ達観してんだよ。学校通ってる?」


「高校からは通ってない」


「あ、不登校だったのね」


「清算が始まる時、自らの行いをいやというほど思い出すことになるのである。あの時こうしていればよかった、そんなことを思っていても仕方がないのにね。まあつまり何が言いたいかっていうと、僕はもう十分満足した、後はこの清算の時を大人しく受け入れるとするよ」


「甘いなお前がいくら自分の中で解釈をつけたとしても、周囲はそれを許さない。お前の心など関係なく、更に徹底的に追及していく、これが世の中の厳しさというものだぜ」


「知ってるさ、それはあまりに残酷で多くのものを上階から下層に叩き落していく。それがたとえ心の優しいものであっても、容赦なく叩き潰していく、それが世界だ。それを破壊したかったんだよ」


「スケールでかすぎて何言ってるかわからん」


「この日のために備えてきた日々が終わって今は抜け殻さ、もう完全に満足、この気分を誰かに共有したい気持ちだよ」


「だから俺にペラペラと今話してんのかよ。そういうのは友達と話すもんだろ?」


「じゃあ僕の友達になってくれるかい?」


「は? 断る」


「辛辣だな……」


「じゃあなα、じゃなかった内村礼」


「さよならこの世界」


 雑音が凄い。他との比較、反対意見の雑音。


 全てが不協和音のように頭の中に響く。


 もう散々だこんな雑音は全てすぐさまに消し去りたい。


 ただ今の自分を支えているのは一つの成功体験だ。


 指示された機械のようなプロセスとは違う、自身の思い描きたいものを繰り出した時、それが成功へとつながった。僕は一時だが理想郷を見たんだ。


 この瞬間全て気づいたんだ。これが僕の生き方なんだと。


 一瞬の出来事だったな、でももう満足した。あとは大人しく最期の時を迎えよう。


 そういうと内村礼は高層ビルの頂上から落ちていった。

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