第35話 里音の学校がゲームに包まれた
「何よこれは」
MMO世界がそこには広がっていた。私が連れ去られたときとはスケールが違うゲームの世界の空間が学校拠点全てを覆って、ファンタジー世界へと変化したのである。
「さあて里音ちゃん、ここからが大変になりますよ。ここは対面したら強制バトルとなる仮想領域拡大空間、どういうわけかナノの学校拠点に拡大したのでした。ナノに誘拐され、学校拠点に入れられた私たちはナノのメンバーもろとも強制的にゲームのルールに従うことになるのです」
「そんな……無理だわ。私は仮想領域内で何もできなかった。ステータスはレベル1相当だし、私はただの一般人よ」
「そう、でも安心して、個々のルールでは心が通じ合った仲間同士はバトルにはならずともに行動できるのよ」
「由愛?」
「里音ちゃんは私が守ってあげる」
あの時手を差し伸べてくれた由愛は私にとって依存してしまうほどの救済だった。
「い、いや! ここはどこよ!」
私たちが歩いていると、ナノに連れ去れた私たちと同じような女子生徒が、彷徨っていた。
「ここはただのゲームの世界だよ。一緒に遊ばない」
「え? ゲームの世界。意味が分からない」
「由愛、この子も仲間に加えるの?」
「え? この子は仲間に加えないよ。えい」
「-」
「嘘」
私は躊躇なく相手の女子生徒のHPを0にした由愛に対して恐怖を抱いた。
「な、なんてことを」
「里音ちゃん。ここではHPが0になったら終わりの世界なんだよ。さっき出会ったばかりの人なんてどんな見た目であろうが、敵でしかないの。敵に容赦をしたら危険にさらされるのはこちらの方よ」
「そ、そんなことをいっても」
この空間に入るまで私はあれだけ由愛を前に優位性を見せて大口を叩いていた。しかしいざ、危険な空間に入った瞬間、私はただ怯えるしかなかった。そしてそんな自分がどうしようもなく嫌いになっていた。
「まあいいよ里音ちゃんは私が守るから」
「由愛……私は」
私が由愛を守る、そういうセリフを言いたかった。しかしそれはただの理想で、今感じている恐怖によって言葉を出す気力が消失していた。
「なんだてめえらわ」
黒ローブ……ナノのメンバーである。
「まずい逃げましょう由愛、ナノのメンバーに見つかったわ」
「大丈夫よ、里音ちゃん、ナノの人に会っただけでいちいち逃げてちゃ先の未来は見え透いているわ」
「そんなこと言ったってナノは仮想領域での戦闘の訓練を受けてるし、素人の私達じゃどうあがいたって勝てるはずが……」
「なんだあ? ただのガキかよ。たっくこっちはボスの実験失敗に巻き込まれるし。いったいここはどこなんだよ。腹立ってるのにガキを相手しないといけないなんてな、俺はナノ精鋭部隊の一人だぞお前らが勝てるわけねえだろうが」
「……」
まずいナノの精鋭部隊はナノの人員の中でも戦闘力が高いと言われている。こんなの私たちじゃどうすることもできないはずなんじゃ。
「ふーん先鋭部隊? ただの雑兵の間違いじゃないの?」
「その言葉後悔するなよ? いでよアイスドラゴン」
「ぐおおおおおお」
「う、嘘でしょ」
ナノの先鋭部隊の男が繰り出したのは、全長数十mはある巨大なドラゴンであった。
「ふははははアイスドラゴだと思ったか? 残念、俺が繰り出したのはアイスドラゴの上位種アイスドラゴンだ! 俺はギルドナノの先鋭部隊のNo.1の実力者、雑兵ではないってことだよ」
「ぐをおおおおお」
「あ、あ、あ……」
目の前に出現した圧倒的絶望に対して私はただただ戦慄するしかなかった。
「もう、おしまいよ、こんなの……っ?」
ふと由愛の表情をみると、いっさいの動揺を魅せずに、目の前の圧倒的実力の敵をみても平常心でいることがわかった。
「里音ちゃん。今から凄いものを見せてあげるね」
「凄いもの?」
「ぐわあああああああ」
「--」
「嘘」
「じゅわああああああ」
次の瞬間アイスドラゴンは一瞬で蒸発した。
「ば、馬鹿な? 俺のアイスドラゴンがこんなガキに! う、うわあああああ」
「どういうこと?」
アイスドラゴン消失と共に、黒ローブをきた男の体が消滅していった。
「ははは、あんなに強大なドラゴンを出したんだからMP切れでそうなるでしょ。まあ、雑兵No.1さんの実力なんてこんなものだよね」
「く、くそが」
黒ローブの男は消滅した。
「はあ、はあ、はあ」
私は自分のことが嫌いになった。あれだけナノの拠点を脱出すると、一人で大口を叩いていたのに、いざ戦闘の場面になると身動きが取れないで由愛頼みである。
「どうしたの? 里音ちゃん」
「私は何もできなかった。ただの足手まといだわ」
「里音ちゃん言ってたでしょ? 運命は自分で切り開くんだって。その強い気持ちを持てるだけで里音ちゃんは私より強いよ」
「どういうことよ」
「そのうち分かるわよ。さあ立って、先に進むよ」
「……」




