第十話 メーガスの決意
読み終わった瞬間「クソッタレ」と呟いて、手紙を握りつぶした。
おかげで停止していた呪いが再起動して、紙束は一瞬で燃え上がって、煤に成り果てて床に落ちる。
でも幻覚なんかじゃない、手に残る火傷の痛みが知らせてくれる。
僕が、殺されるだと?
この最強の魔術師たる僕が、市街地の中で?
一体誰に、どのようにして?何が目的で?
モンスターでは無いのだろう。魔王の軍勢なら、ハッキリとそう書く。
恐らく対策方法も含めて。
しかし、書かれていない。モンスターじゃない可能性の方が高いという事だ。
しかし、殺されないで欲しいと言いつつ、避ける方法が街から出ろ、だけというのは、どう言う事だ?不親切にも程がある。
納得が行かない。全く行かない。これで言うことを聞いて、街を離れてくれると思っているなら、ブレイブ、僕に対する理解が、まだまだ足りない。
帰る気どころか、先ほどまで落ち込んで、いじけていた気持ちが吹き飛んで、ヤル気に満ち溢れていた。
「つまるところ、僕を殺そうとした奴を、逆に僕が殺せば解決する問題、という事だろう?」
言葉にしてみると明瞭で、スッキリ笑顔になる。
なぜ、そんな簡単な事を、こんな染みったれた手紙でツラツラと書きつけなければならないんだ馬鹿め。
僕を三文芝居のか弱い姫か何かとでも思っているのか?
確かに、見た目だけなら舞台女優にだって負けやし無いけれど。
だが、僕はか弱いだけの乙女じゃない。
最強の魔術師なのだ。降りかかる火の粉ぐらい、自分で振り払える。
そして、ソイツを殺して首の一つでも手土産に、次の街まで追いつけば、また旅を続けられるという事なのだ。
俄然やる気が湧いてきた。
問題は、その犯人が誰か、手紙の内容からは検討もつかない事だ。
ブレイブ曰く、僕が何かを知った事によって殺される事となったわけだが。
「つまり、それを知ったのが僕だと認識されなければ良いのでは?」
目元を覆う布を引っ張って外すと、魔術師の正装であるローブを脱いだ。
荷物の中から捨てようとと思って纏めていた化粧箱を開き、明るい色と心がワクワクする香りが鼻をくすぐるのを楽しむ。
僕は、別に、女の子になりたいわけじゃないのだ。
あのふくよかで柔らかい肉体に、何ら憧れはない。
だけど、関係あるのか?この華やかな色合いと良い匂いが嫌いな人間っているのだろうか?
街で買い集めたり、自分で薬草から煎じて作ったり、可愛いケースに入れた化粧品達を見ていると疼く。
可愛くなりたい。褒められたい。大事にされたい。気持ちが抑えられない。
更に奥からズルズルと出てくる、白いワンピース。というデザインを取ってるが、実は耐魔布で編まれたローブを肩に合わせる。
気がつけば、かなりの時間が経っていた。
そして粗悪なガラスで作られた、濁った鏡。そこに女装で、化粧まで施した姿を映している自分がいた。
市街地散策向けにエレガンスな白いワンピース、黒髪ロングのカツラ、そしてほのかにピンクで健康的なナチュラルメイク。
可愛い。とても可愛い。自画自賛ではあるが、真実だから仕方がない。
僕は、かなり美人だし小柄で可愛いのだ。
これが、男だからといって黒い布で覆い隠してチビ扱いされるのは罪では?
「ふふ、これで僕を僕だと認識できる者はいないだろう」
あのムカつく補佐官であっても、視線一つで誘惑できる自信があった。
気持ち悪いから絶対、見たくもないけれど。
メイスとローブを透明に擬態させて背中に背負い、可愛い革製のポシェットをワンポイントで下げる。そうして、窓からこっそり飛び出て、屋根の上に飛び乗る。
ふんわりと舞い上がったスカート、その裾についた美しいレースが目に入ると嬉しくてたまらない。この街に来る前に、助けた民家の婦人に分けてもらったのだ。
階段を登る時に、ちょっとスカートの裾をつまみ上げた指先。そのネイルは真珠色に輝いている。
殺輪蟲と呼ばれる、回転移動して獲物に襲いかかる毒虫。そいつを討伐した時に、絞り出した汁から作られたとは思えない、美しい輝きである。
美しいだけじゃない、これで引っ掻かれたり、飲み物に指を入れれば、相手を暫く麻痺状態にできる逸品だ。僕が考えて作りました。
塗って良かったなぁ〜とネイルをキラキラと夜月に輝かせながら、微笑む。
行き先は、もう決まっていた。




