073 旅の記憶[19]
「ここがその現場だ」
マモン一行に連れられたのは森に挟まれた街道。それは私達が通った道とは違う、比較的交通量の多い主要街道だ。今も馬車の定期便が運休されておらず、物流もこちらを使って行われている。それでも先にあるのが小さな村なのだから、常に人通りがあるわけではない。ならば盗賊が人知れず仕事を行っていても、通りがかりの人に助けてもらうなんて事を期待するのは難しいだろう。
「ありがとう。調べるから少し下がっててもらえるかしら?」
「それはいいが、調べるつったってどうすんだ? もう半年も前だ、血痕すら流されてるぞ?」
「……。まぁ教えても問題ないかしらね。魔導士ギルドの調査は物証を探すものではないのよ」
「あ? ブッショウ?」
「物に依らないのが魔導士よ。探すのは魔力。強い想いは魔力を介して現場に残るものなの」
「それってつまりどういう事だ?」
「盗賊であれ、魔物であれ、幼い子を残して死んだ親が強い想いをこの場に残さないはずがない。
それは魔力の痕跡となって残るはず。それを読み取れば、その時何があったかわかるはずよ」
「……。ほう、まぁ頑張ってくれ」
そう言い残しマモン率いる男四人は、街道の縁へと下がり腰を下ろす。それについて行こうとしたミズキを引き留め、私は魔力の残り香というべきものを探した。
さすがに魔力といえど、永遠に残るものではない。半年前、それもルイはヴェルデによって助け出されている。ならば少しばかり安心した事によって、想いの強さが弱まっている可能性もある。
私の目でも追えるかどうか、少々の不安を抱えながら慎重に大地と空気、空間全ての魔力を見極めんとした。
「ところでひとついいかな?」
「何? 集中してるのだけど」
「こっちの街道あるなら、わざわざポールさんに馬車出してもらう必要なかったんじゃない?」
「……。こっちを使うとなると遠回りになるし、他にも色々あるのよ」
「ふーん、まぁいいけど。で、調査は俺が居ても仕方ないよね?」
「魔法の準備をしておいてもらえるかしら。調べられて困る相手が襲ってこないとも限らないわ」
「あぁそっか。盗賊が邪魔しに来るかもしれないもんね。でもマモンさん達がいるよね」
「調べている間は隙ができるもの。直接対処できる分、あなたの魔法の方が融通が利くわ」
「慎重派だねぇ。わかった、魔法のイメージだけしておくよ」
聞きたい事を聞き終えれば、周囲を見回しながら魔法のイメージを展開する。それは村へ来る道中のそれとは少し違い、周囲の木々を使った蔓による束縛魔法だったり、曇った空から降り注ぐ雹による攻撃だったりと、自然環境を利用するものだ。
その事自体は、すでにあるものを利用するため魔力の消耗が抑えられ有利になる方法ではあるのだが、彼がそんな事に気を回すのが不可解に感じた。彼の持つ強すぎる魔力であればそんな事をしなくてもごり押しで魔法を使えるし、魔力切れを起こす事もないのだから。
けれど彼の濃すぎて読みにくい魔力からは、昨日の夜のルイとの訓練が影響しているのだと読み取れた。実戦というのは、その場にある物を使い、省力で立ち回る必要がある。それをあの打ち合い稽古とも呼べぬような訓練から感じ取ったようだ。
もちろん事前にギルドでそのような指導をされていたようだけれど、今までは見せなかった実践しようとする姿に、この旅を通じて少しばかり頼れるようになっていくのではないかという期待を感じたのだった。
「ダメね。事件の痕跡はさすがに消えてしまってるみたい」
「え? マジで?」
「えぇ。何かあった、という程度なら残ってはいるのだけど……」
私の諦め声にミズキは驚きを隠せないでいる。どうやら彼の目には、私は万能な旅のお供と映っていたらしい。魔力を供給してやれば魔法を調整してくれるし、交渉事も全部うまくやってくれる。そんな信頼という名の責任転嫁先が、初めて降参を示したのだ。
うん、評価は高いけれど扱いは最悪ね。ともかく、まさかの展開にミズキは戸惑っていた。
そしてそれを聞いたマモン達もあきれ顔だ。
「だろうな。半年も前だ、無理はない」
「そうね。手を煩わせてごめんなさい」
「仕方ないさ。俺たちも報告するの手伝うから、気を落とすな」
「えぇ……」
大口を叩いておいて、魔導士ってのも大したことないという考えが流れてくる。
ミズキほどではなくとも、魔導士というのを特別視する人は多いのだ。特に冒険者であればなおさらだ。
強力な魔法で形勢逆転を狙える魔導士に、尊敬と妬みの混じる感情を抱く冒険者は多いと聞く。そして経験が全ての冒険者に対して、理論が全ての魔導士。互いに必要としながら、わだかまりを持ってしまう気質の違いと表現すべきものも多いに関与しているだろう。
そんな魔導士の失敗は、冒険者にとって嬉しい事とまでは言わずとも、溜飲が下がる思いなのだろう。
「それじゃ、帰るとするか」
「その前に、少し寄りたい所があるのだけどいいかしら?」
「寄りたい所?」
「えぇ。何が起こったかまでは分からないのだけど、何かあった痕跡が続いてるのよ」
「……。それはヤバいのか?」
「どうかしら? 可能性としては生き残りが居て逃げ延びた跡とか……、そういうのかしら?」
「それはどっちへ続いている?」
「そうね……。向こうの方ね」
私が指さす先、それは精霊の森の中だった。
次回は7/16(木)更新予定です。




